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STANDALONE!成行!       序章 じっちゃんはマニアック!第三話

 2024年6月某日曜日夜、抱狐(だっこ)と名乗る白髪の謎の美少女がとある海の崖の下を見つめている。ん?全裸の女性?白い肌の若い女性が海に浮かんでいる。断崖絶壁なので近寄れない。抱狐は涙を流している。「聞こえる・・深い悲しみと憎しみと愛情の声が・・・聞こえる・・・かわいそうに・・・」次の瞬間抱狐は姿を消した。抱狐は崖の下にいた。どうやって移動したのか?。海に浮かぶ女性の姿を見ると人ではない。人形?抱狐はその人形を抱き寄せる。「さあ、もう大丈夫だよ。お前の望みを言ってごらん。なんでもかなえてやろう。」身の毛もよだつような恐ろしい笑みを浮かべ、人形の耳元でささやく。「帰りたい・・・浩二の元に帰りたい・・・憎い・・・私を捨てたあいつが・・・憎い・・・・」なんと!先ほどまで海に浮かんでいた等身大のドールがしゃべりだした。等身大ドールが抱狐の右手を握った。「私・・・動けるの・・・・」「ああそうだよ。私は嘘はつかない・・・お前の望みをかなえてやる。さあ、恋人の元へお行き。そしてお前の望みを叶えなさい。」全裸の人形は岸壁で破損したのか腹部と胸に大きな裂け目がある。顔も右半分が無くなっている。それでも嬉しそうに微笑む。等身大ドールは抱狐によって命を与えられたようでよろよろとしながらもゆっくりどこへともなく歩いて行った。
 みなとみらい近辺の某高層マンションでエリート風の30代ぐらいのサラリーマンが夜景を見ながらワインを飲んでいる。隣にはドレスを着た若い派手な化粧の女性が座っている。「きれいな夜景ね。いつもこんな素敵な景色をここで眺めているのね。」「今夜は特別美しく見える。だって君がそばにいるから。」歯が浮くようなキザなセリフを言うこの男は澤田浩二39歳。職業はファンドマネージャーである。数年前独立して大成功をおさめ資産は数億とも言われている。浩二は女性を酔わせてすぐに体を求めようとするが女性に何度もじらされている。「せっかちね。夜は長いのよ。」
しかし酔いが回ったのか女性は目を閉じてソファーに倒れ込んだ。
「やっと効きだしたな。今夜はたっぷりと楽しませてもらうよ。」浩二は女性を寝室にお姫様抱っこで移動させた。全裸にして照明を強めにして体の隅々までなめるように見つめた。
「ふん、まあまあだがこんな体の女にも飽きたな。でも俺も出世したものだ。数年前までは等身大リアルドールのお世話になっていたんだからな。」寝室のクローゼットを開けると美しい等身大リアルドールが現れた。全裸である。全裸でドールスタンドに立たされている。「俺は誰かに見られると興奮するんだ。ドールに見られながら生の女とやりまくる。興奮度倍増だぜ。」浩二は酔いが数倍の速度で回る薬を女性のワインに入れていたので女性は重度の泥酔状態である。浩二は獣のように全裸の女性にむしゃぶりついて朝まで狂ったように性行為を繰り返した。その様子を悲しそうにクローゼットの中からドールが見つめる。
 翌朝、浩二は何事も無かったかのように涼しい顔で出社した。昨夜の女性は全裸のまま寝ていたがテーブルの上にあるお金を見つけてそれを持って出て行った。「しけているわね。あんな豪勢なマンションで暮らしているというのに。」しけていると言ってもかなりの金額である。昨夜浩二と一夜を共にした派手な女性はお金を財布に入れて不機嫌な顔で去っていった。
このような怠惰な生活を送る浩二だが会社ではエリート経営者の仮面をかぶっている。社長室でやや疲れた表情で独り言を言っている。「昨夜はハードだったよなあ。要らなくなった等身大ドールを海に捨てに行った帰りに寄ったキャバクラでお持ち帰りして朝まで楽しんだからな。でも俺の体力も大したもんだ。」あの等身大リアルドールを海に捨てたのはこの男だった。
 そして次の日の夜なぜか行成鷹成(いきなりたかなり)都が麗美が浩二のマンションの近くに現れた。「親方様、抱狐の気配がします。どうやら抱狐に命を与えられた憎悪に満ちたドールがこの近くにいます。」「抱狐め!能力がさらに向上してきている。このままでは犠牲者が出かねないな。早めに何とかしないと。」「でも親方様、ある意味自業自得では?。人形を無残に捨てた人間など助ける必要はないのでは?。」「犠牲者がそいつだけならまだしも憎しみで見境が無くなって人間全体を憎んで暴走したら多くの犠牲者が出る。それだけは避けねばならない。」

「分かりました。親方様のおっしゃる通りに致します。」麗美のまわりに急に強い風が吹いてきたが不思議な事に風が急に止んで無風状態になった。「準備万端!行きます。」麗美は一瞬でその場を去り抱狐の気配を追った。
 深夜12時、浩二は仕事を終えてその日は珍しくまっすぐに自宅のマンションに帰った。「さすがに今夜ぐらいはゆっくり休みたいな。女を抱くのも飽きたしな。」そう言いながらクローゼットを見つめる。「俺は経営者だ。女なんて金でいくらでも買える。等身大ドールも処分するかな。引き取り業者に頼むと金かかるから又海にでも捨てに行こう。」億万長者のくせにケチな男である。するとリビングの窓際の隅で何かが動いた気がした。「気のせいかな?。ワインでも飲むか。」浩二が冷蔵庫にワインを取りに行こうと立ち上がった瞬間に声が聞こえて来た。「許さない・・・・許さない・・・」「何?TVでも消し忘れたかな?。」すると次の瞬間「ぐわああああああー。誰だお前は。」ものすごい力で浩二の首を絞める者がいた。「強盗か?金なら欲しいだけやる。だから放せ!。」「許さない・・・・絶対許さない。」もがき苦しみながら窓の近くに移動すると月明かりが入ってきてその何者かの顔が見えた。「うわああああ化け物だああ・・・・。」抱狐により命を与えられたあの海に捨てられた等身大ドールである。顔半分が無くなっていたその姿はまるでホラー映画のモンスターのように見えたのだ。その時突風が瞬間的に吹いてモンスターと化した等身大リアルドールを吹き飛ばした。「間に合った!。突風波!」麗美である。麗美は風が吹くとその風そのものを体にため込んで必要な時に敵に風を圧縮してぶつける突風波という技が使えるのだ。壁にたたきつけられるモンスター等身大ドール。モンスター等身大ドールは玄関から外に逃げ出した。それを追う麗美。リビングには浩二が倒れ込んでいる。「一体何が起こったんだ?。俺は酔っているのか?。くそう!こんな不気味な幻覚を見るのはドールのせいだ。明日全部廃棄してやる。」怒り狂って等身大ドールが閉まってあるクローゼットを開けた。すると。「ぐわあああああ。」なんと!等身大ドールがまたしても動き出して浩二の首をものすごい力で締め上げる。ドールはゴキツという鈍い音がするまで万力のようにものすごい力で締め上げた。泡を吹いて倒れ込み、浩二は心肺停止になった。その様子を窓の外から抱狐が微笑みながら見ている。「行成の奴らまんまとおとりに引っかかったわね。」目的を果たした抱狐は浩二を殺したドールとともに姿を消した。
 一方、愛華は先ほど浩二を襲った海に捨てられていた等身大ドールを追った。モンスタードールは突然動きを止めてその場に立ち尽くした。すかさず麗美は突風波を発射してモンスタードールを吹き飛ばした。壁にたたきつけられたモンスタードールはバラバラになって動かなくなった。
「任務完了。親方様に報告しに行きます。」鷹成と麗美は無事任務を完了したと思い込んでいたが翌朝、おとりと戦っていた事をニュースで知らされて二人はひどく落胆した。
「しまった。あいつはおとりだったんだ。抱狐の奴、同時に数体のドールに命を与えることが出来るようになったのか!。これは急いで成行を覚醒させないと取り返しのつかないことになるな。今回は我らの負けだ。悔しいが・・・。」鷹成はこの敗北にすごく落胆した。
 この事件は”等身大リアルドール”強盗殺人事件としてマスコミに扱われる事になった。

 さて行成宗家がピンチに陥りそうになっている頃その成行は就職先のリサイクルショップのリサイクル工場で二日目の応援業務を先輩の北条美里といっしょにやっていた。夏を目の前にエアコンなどの冷房家電を修理してクリーニングしてお店に並べる為に一人でも多くの人出が必要だったからである。特に工業高校出身の成行は将来工場スタッフとしても働けるようにと今回の応援を上層部が決定したのである。美里はエアコンのクリーニングを四苦八苦しながらやっていたが成行は楽しそうにやっている。「あらうまいわね。やっぱり男の子ね。」「俺勉強は苦手だったけどこういうことは得意なんです。」成行は得意になって美里の分も手伝った。昼休みに成行は美里をランチに誘おうと探したがどこにもいなかった。「すみません。美里先輩を知りませんが?。」「ああ北条君なら先ほど副社長と一緒に昼食に行ったよ。」「え?副社長が来ているのですか?。」「この工場は副社長の管轄だしね。工場長も兼ねているよ。」成行は折角美里と楽しいランチタイムが過ごせると楽しみにしていたのでひどく落胆した。「しゃーない。ガストでも行くか。」その後美里は戻らす仕方なく成行は一人でエアコンの分解掃除を夜まで行った。繁忙期前の応援なので仕事は深夜にまで及んだ。
深夜11時まで美里を待っていたが先に帰ったらしく美里の荷物は無かった。「折角一緒に帰ろうと思っていたのにな。」落胆しながら成行は帰宅すべく駅に向かった。最終電車ギリギリなので近道をするためにラブホテル街を通った。「いい気なもんだな。こっちは汗だくで必死に働いていたっていうのに。」文句を言いながら駅に向かう成行。すると一台の高級外車がホテルから出て来た。「ちッお楽しみの直後か~いいなあ。」そう思って助手席を見ると!なんと

美里が乗っていた。運転しているのは成行の会社の若い副社長だった。
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


信じられないものを見てしまった成行。

その衝撃でその場から動けなくなってしまった。
目の前の事実を受け入れるのに30分はかかった。
「え・・・夢でも見ているのかな・・・ホテルから出て来たという事
は・・・・そういう事だよな・・・・。あれ・・・涙が止まらない・・・あれ・・・・。」

結局成行はショックで終電を逃してしまった。
仕方がないので24時間営業のファミレスで一夜を過ごした。
ファミレスでドリンクバーを頼んでずっと何も飲まずに俯いて泣いていた。

「勝手に・・・憧れていただけだったんだし・・・彼氏がいることだって・・・あんなに綺麗なんだから当たり前だし・・・あんなに綺麗なんだから副社長に交際申し込まれても不思議じゃないし・・・。」
 男子しかいない工業高校で3年過ごして卒業して就職して初めて出会った理想の女性が美里だった。
 眩しすぎるその魅力に夢中になっていたが本日今さっき・・・・
厳しい現実を知った成行。
全身の力が果てしなく抜けていくようであった。

 翌日工場応援の二日目、成行はわざと夢中になって秒刻みで仕事を行い美里と話を一切しないようにしていた。「ねえ成行君、どうしちゃったのよ。根を詰めると体壊すよ。」美里が心配そうに声をかけるも無言で仕事をこなす成行だった。
成行は深夜まで仕事を続けた。美里は先に帰ってしまった。

幸い明日は日曜日なので一日美里と顔を合わせなくて済む。ちなみに明日の日曜日は山下とダブルデートの約束の日である。そんなことはすっかり忘れてしまっている成行だった。

 深夜12時、成行は帰宅した。するとミイアが寝ないで待っていた。簡単な夜食まで作ってくれていた。
「どうしたの?。元気ないね。ははあ仕事で失敗して怒られたんでしょ。」微笑むミイア。しかし成行は無言である。その様子を見てミイアは悟った。「ふられたの?。」成行はその場に立ち尽くして涙を流した。
「美里さんね。彼氏がいたんだね・・・。」ミイアは成行がコクる度胸がない事を知っていたので失恋といったら彼氏がいる事を知った時だと分かっていた。
 「じゃあ!かわいそうな成行の願いをかなえてあげよう!明日のニセデートOKよ。喜びなさいね。」
「え?何それ?。」
「忘れたの~喧嘩までして頼んできたのに呆れた!。」
 成行は少し元気になった。
「思い出した。山下からラインが来たんだったよな。嘘ついて山下に悪かったかな?。もうどうでもいいや。でもミイアがデートしてくれるなんて嬉しいから行くよ。」成行に笑顔が戻った。
続く

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