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人のいない楽園・・・第五章 不透明な関係 第一話
2024年7月某日、某精神科医院のヒーリングカウンセラーの佐藤昌行は普段はテレワークでカウンセリングを行っているが対立する女性美人精神科医の下村由紀が出張や研修で留守の日だけは患者さんと対面カウンセリングを行うようにしている。
今日は重症の精神疾患患者の対面カウンセリングを2件予定している。
本来憂鬱になりそうな業務だがその日の昌行は朝からご機嫌である。
なぜならプロのモデルや女優顔負けの美女と同棲しているからである。
しかしその美女は等身大リアルドールであり人ではない。
その美女ドール”愛香”はリビングのソファーで下着の上から白いYシャツを羽織っている。その姿は人ではないが人にしか見えない。
アイスコーヒーを2杯入れてそのグラスを愛香のソファーの前のテーブルに置く。昌行は朝のニュース番組を見るのが日課でその日もTVを点けていた。「次のニュースです。昨夜池袋で若い女性をめった刺しにして殺害した50代の男性が逮捕されました。」「なんだって!?又女がらみの事件か?。最近多いよな。等身大リアルドールお迎えしてりゃそんな事件起こさなかったかもしれないのになあ。」ため息をつく昌行。
そういいつつ愛おし気に愛香を見つめる昌行。
「今日も暑くなりそうだな。愛香、悪いな、今日は病院に出張なんだ。」なんとなく愛香の表情が寂し気に見える。「さすがに重症の患者さんはテレワークっていう訳にはいかないし、最近由紀の奴は精神疾患自立施設のグループホームに出張治療に行くことが多くなったから俺が病院に行く日も増えたよな。愛香がさみしくないように何か手を打たねばな。」昌行はYOUTUBEをつけっぱなしにしてその日は外出した。愛香がさみしくないようにとの配慮のようだ。
病院では一人の私服刑事が院長と深刻な表情で早朝から応接室で長話をしている。この地区担当の刑事”米倉栄作”30歳独身は地域防犯課の仕事も兼務している。「ご存じの通り最近女性が襲われる事件が頻発していまして、この地区だけでも先週3件も痴漢騒ぎがありました。
そこで犯罪者の心理を探って防犯に役立てる方法はないかご相談に乗っていただきたいと思ってご訪問させていただいたのですが難しいですかねえ?。」途方に暮れた様子の米倉刑事。「うちの病院でもお役に立つ情報がご提供できれば良いのですがあいにく精神科の医師が出払っておりまして。おっしゃる通り心理学的な側面から犯罪者の心理を分析して防犯につなげられれば良いのですが今すぐに具体的なご助言を差し上げる事が出来ず申し訳ありません。」院長は頭を下げる。「いえいえ、頭をお上げください。では精神科の先生がいらっしゃるときに又来ます。」米倉も頭を下げて応接室を出て行った。そこへ昌行が通りかかった。「佐藤カウンセラー、ちょうどいいところへ、米倉刑事、うちのヒーリングカウンセラーの佐藤君です。彼は下手な医師より優秀です。少しお話していきませんか?。」米倉を呼び止める院長。「それはありがたい、一秒でも早く対策を立てたいので是非相談に乗ってください。」「私で良ければ喜んで。」昌行は応接室で米倉刑事と話をすることにした。
「確かにここ最近の性犯罪の増え方は異常ですよね。
その防犯対策に刑事さんは四苦八苦なさっているのですね。」
「原因は男性の性欲とシンプルなのだがその性欲が抑圧されている世の中であることも遠因でしょうな。私だって男ですからAV見たり風俗行ったりしますがそれだけでは足らんのですかねえ?。」
「犯罪者の動機は何でしたか?。」
「ムラムラしたから。我慢できなかったから。既婚者の犯罪者も少なくないですね。」
「欲求不満が爆発して理性が失われたように思えますね。風俗も高いし物価は上がるし給料は上がらないしで悪循環ですよね。」
「それに、彼女がいてもやらせてくれない、やっても下手だとSNSで愚痴られさらされる。彼女を作ろうにもハードルが高すぎる。職場でも誘ったら即セクハラ扱い・・・・抑圧の事例は数知れず。」
どうやら昌行でさえ会話は平行線である。
「佐藤カウンセラーは恋人がおられるのですか?。」戸惑う昌行
「ええまあ。仲良くやっています。」
「それは良かった。健全な交際が一番ですね。今日はありがとうございました。」米倉は残念ながら成果は得られなかったようだが様々な話が出来てストレス解消できたのか?。すっきりした様子で帰っていった。
しかしその夜事件が起こった。深夜11時半、一人のOLが駅から歩いて帰宅していた。「終電間に合ってよかったな。明日はフレックス使って遅く出社しよう。」保険営業アシスタント事務の北条愛24歳、元体操部の引き締まった女性である。すると後ろから一人のスキンヘッドの30代後半に見える男が後をつけていた。「いやだわあの人駅からずっと同じ距離でついてきているみたい。」愛は怖くなり急に駆け足になった。すると男も駆け足になった。丁度その頃同じ電車に乗り合わせた昌行が男の斜め後ろを歩いていたが女性が怪しげな男につけられていることにすぐに気が付いた。
「見るからに痴漢ですよと言わんばかりの容姿だな。前も膨らんでいる。」昌行はそっと男の後を付けた。人気のない倉庫街に差し掛かった時。
「キャー痴漢よー。」悲鳴を上げた瞬間男は愛の口に手を当てた。
「騒ぐな。殺すぞ。」ナイフを見せて女性を脅した。男は女性に抱き着いて首筋を舐めまわした。「お願い。やめて。」
「でへへへ。出所したばっかでたまっていたんだ。でへへへ。」すると男の目の前が急に真っ暗になった。男にシャツを被せる昌行。後ろから羽交い絞め状態なのでナイフも振り回せない。
「いまだ。逃げろ。そして110番だ。」叫ぶ昌行。
「はい。もしもし警察ですか?。」愛は110番通報して位置もGPSで知らせた。「ちくしょう放せ。」暴れる男。しかし羽交い絞め状態なので身動きが取れない。昌行は男の右足の後ろから昌行の足をひっかけて前に将棋倒し状態で倒れた。倒れたショックでナイフが男の手からはじけ飛んだ。そのまま昌行は体重を乗せて男を押さえつけた。押さえつけるための体力を温存するために全体重で押さえつける為だ。「ちきしょう放せ!。」間もなくパトカーが来た。「お巡りさんこいつが犯人です。犯行に使ったナイフはあそこです。」警官三人が昌行に代わって男を取り押さえた。女性は泣きながらパトカーに乗せられ署まで同行した。昌行も同行した。
警察署には米倉刑事もおり昌行は恐怖におびえる女性の代わりに事情を説明した。
「なるほど。偶然とはいえ助けてくれてありがとうございました。」
「あそこで何もしなかったら女性が危なかったので必死でした。」
「しかし見事な取り押さえ方ですね。何か格闘技でも?。」
「総合格闘技と筋トレやっていました。」
しばらくすると若い警官が米倉に報告に来た。「やっぱりな。今日捕まった痴漢は”藤尾宝幸”という元僧侶だ。三日前まで婦女暴行で実刑判決を受けて収監されていた。出所しては痴漢を働き又収監を繰り返している常習犯でな。今回は出所後3日で再犯しやがった。最短記録だぜまったく。」
「元僧侶?ふじおほうこう?いかにもふじょぼうこうしそうなゴロの名前ですね。」「あーあ、又逮捕しても収監中の禁欲生活で又出所したら痴漢を働くぞこいつ。死刑にしてやりたいよまったく!。」頭を抱える米倉。「刑事さんも大変ですね。何か再犯防止になりそうなアイデアがあればいいのですが?。そうだ。」昌行はスマホの愛香の待ち受け画面を米倉に見せた。「これは美しい女性だ。こんな時に恋人自慢はやめてくださいよ。」「いいえ、これは人形です。等身大のリアルドールです。」「あんだって!!?信じられん、人間にしか見えない。」「この犯人をこの等身大リアルドールの沼にはめたらいかがでしょうか?。」「えええ!。でもこれであの性欲に飢えた地獄のケダモノを満足させることが出来るかなあ?。」米倉は少し考えたが何も有効な対策がない今やれることは何でも試そうと決意した。「しかし綺麗なお嬢さんだな。これいくらで買えるんだ?。」「刑事さんが沼にはまってどうするんですか?。」「ああそうだな。まずは犯罪防止対策が優先だ。」昌行は等身大リアルドールの代理店の製材写真でエロそうな写真を選んだ。黒豹ANNYというプロカメラマンが撮影した美しい等身大ドールの写真を取り調べ中の藤尾にプリントアウトして渡した。「こここここ女はなんだ!やりてえ!いますぐやりてえ。!うおおおおお。」
「掴みはOKですな。」「では本題に入るか。」
「おい藤尾、この女とやりたいか!。」
「あたりまえだろうう。今すぐやらせろおら。」
「この女が人間でなくてもいいのか?。」
「こんなにいい女なら宇宙人でも剥製でも死体でもかまわないぜ。でへへへ。」
「刑事さん、大丈夫そうですね。中古ドール専門店のライシアさんで一番安いドール実験的にとり寄せますか?。」
「そうだな、捜査経費でなんとかする。ポチってくれ。あとで領収書お願いしますね。」
「はい。ぽちっと。明日には届きます。」米倉刑事は藤尾の再犯防止の為実験的にTPE等身大ドールをポチった。
「しかしいくら安価なTPE中古ドールでもこんなケダモノの生贄にしてしまうのはかわいそうだな。」
「世の中の平和と安全と秩序維持のためだ。すまん。」二人は心底ドールにすまないと思ってしまった。
翌日、昌行は痴漢から女性を救った事で警察から感謝状を受け取り、その翌日の病院の朝礼でそのことが発表された。誇らしげな院長。
「えー昨日のTVでご存じだと思いますが当病院のカウンセラー佐藤昌行君が女性を痴漢から守りました。」場内から拍手が起こる。「いやー素晴らしい。女性が間一髪で危ないところを勇敢に戦って救うとは。」さらに拍手が起こる。その様子を渋い顔で見る由紀。
職場の雰囲気少しづつ変化し始めた。「佐藤カウンセラーって勇敢なのね。普通の男だったら見て見ぬふりよね。」「等身大リアルドールの持ち主なのに正義感強いのね。」「人の趣味を偏見でみちゃダメかもね。」由紀は不機嫌な様子でその会話を聞いていたがやがて堪えられなくなりその場から消えた。
一方、警察署には昨日ポチったライシアドールから防犯用TPE製等身大リアルドールが届いた。早速開封する米倉。「ほう、これが等身大リアルドールか!?本当にリアルだ。しかも柔らかい。」舐めるように見る米倉。署内の若い警察官も集まって来た。「米倉刑事、これが性犯罪防止アイテムですか?。よく出来ているなあ。俺も欲しいなあ。」「俺も欲しいなあ。警察官の嫁になってくれる女性は少ないからなあ。」警察署内で大評判になってしまった等身大ドールだが早速下着を着用して藤尾がいる留置場の檻の外側に車椅子で運び込まれた。それを見るや否や藤尾はわめきだした。「なんていい女なんだ!。早くやらせろおら。」米倉はにやりと笑った。「ただでやるわけないだろう。高かったんだぞ。」「何でもするからよこせおら。」「どうせ金なんてないんだろう。山城工務店の現場で2週間働け。寮も空いてるしな。」「なんでもするからやらせろおら。」「ようし。交渉成立。早速大頭領に電話だ。」米倉刑事が山城工務店の大頭領こと山城剛に電話した。
一方こちらは山城工務店「おお米倉刑事、お久しぶりです。知り合いの組員の面倒を収監中に見てくださってありがとうございました。」「お礼を言うのはこちらですよ。出所して行き場のない組員を雇ってくれたんですから犯罪再発防止になるので大助かりです。」「ところでご用件は?。」「実は元僧侶の婦女暴行常習犯の”藤尾宝幸”を2週間ほど使ってくれませんか?。」「2週間でいいのですか?。」「はい、二度と婦女暴行を働かぬように等身大リアルドールの沼にはめてそのお迎え代金を稼がせるだけですので。」「分かりました。お安い御用です。等身リアルドールはいいですよお。プロのモデルみたいな女、現実世界ではまず抱けませんからね。その藤尾とやらも沼にはまりますよ。」上機嫌の大頭領。「これでまた一人この世に等身大リアルドールマニアが増えるな。めでてえな。」間もなく藤尾の履歴書と顔写真が大頭領に送られて来た。「ん?。こいつうちの山本六郎に似てるな。婦女暴行魔ってこんな顔が多いのかな?。」一方、現場監督の山本六郎は謎のくしゃみが止まらなかった。
第一話END