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人のいない楽園 第六章          狂信者達の盲目 第三話

 2024年8月末頃某日、謎の美女”新井裕子”の正体がどうしても気になって仕方がない貞行は仕事の合間に裕子を探したが結局見つからなかった。他人からは見えない謎の美女の正体、同じ職場だと嘘をついた理由など分からないことだらけだった。しかしなんとなくどこかで会った気がすると貞行は思った。そうこうしているうちにセコハンのメイちゃんが届いた。巨大な棺桶のような重たい丈夫な段ボール箱を抱えて大汗をかきながら年配のドライバーさんがマンションの階段を必死で登って来た。「はあはあはあ~。児玉さ~ん。お荷物ですよ~。」ドアの前で大声を上げるドライバーさん。
「お待ちしていました。」大急ぎで玄関に出る貞行。
「商品は家具ですよね。それにしても重いですね。」
「50kgあるらしいので。」「50kg!どうりで重い訳だ。」少しあきれた表情のドライバーさんは荷物を玄関に運び入れたのちすぐに帰らずマンションの廊下でしゃがみ込んで数分間休んでから帰った。
「よっぽど重かったんだな。」すまなそうな表情になる貞行だったがすぐにカッターを持って段ボールを開封した。
「傷つけたら大変だから慎重に開けよう。」はやる気持ちを抑えつつ慎重に開封する。すると白い布にくるまれた美しい体が布から浮き出ている。胸が大きいのに綺麗な形なのが分かる。「ドキドキするな。」布をめくって柔らかい布で拭いた後とりあえず付属していた下着を慎重に着せて自立加工ありなので事前に用意していた台座に立たせて壁と背中の間にクッションを挟んで壁に立てかけた。しかし箱から出すのだけでも一苦労だった、さらに立たせるだけでも慎重かつ丁寧にやったので合計30分以上かかった。
 重さだけで体力のすべてを奪われそうである。貞行は大汗をかいて大の字になった。「これは先が思いやられるぞ。ジムに通って鍛えないと。」
10分後休憩を終えていよいよヘッドを装着し、付属の茶色いウエーブのセミロングヴィックを装着した。そのあまりの美しさにこれまでの疲れが吹っ飛ぶようであった。
「これが等身大リアルドールなのか・・・綺麗だ・・・・この娘が今日から俺の恋人になってくれるんだな。嬉しすぎる・・。」貞行はほぼ自分と同じ身長の等身大ドールと同じ目線でドキドキしながら見つめ合った。メイはうれしそうに微笑んでいるように見える。
「名前も考えないとな。」貞行は棺桶のような段ボールをとりあえずマンションのロフトにしまった。今日は疲れたからここまでにしよう。明日この子の服を買いに行かないとな。」
開封で疲れ果てた貞行はそのまま眠ってしまった。床に子猫のようにうずくまって眠る貞行の姿を優しそうな表情でメイはじっと見つめている。
 疲れ果てて深い眠りについた貞行は夢の中で又駅のホームに一人で立っていた。白い霧が立ち込めている。電車とホームのベンチや自販機がかろうじて見える。「又あの夢か。」
電車のドアが開くと一人の背の高い色白の眼鏡の黒髪の巨乳の女性が出て来た。「貞行君久しぶりね。又会えてうれしいわ。」心の底から嬉しそうにその女性が貞行を見つめて微笑んだ。「え!?新井さん?新井裕子さん!。」貞行は驚きと嬉しさで複雑な表情に見える。「突然いなくなったりして・・・しかも同じ会社の社員だと嘘までついて・・・。」少し寂しそうに言った。「ごめんなさいね。あなたと話がしたくてつい・・・。」すまなそうに俯く裕子。「君は一体何者なんだ?。他の人には見えていなかったみたいだが。幽霊?」「お願い、それ以上聞かないで。ただあなたにもう一度だけ会いたくてついあの場所に行ってお話したら離れたくなくなってつい何度もあの場所に行ってしまったのよ。ごめんなさい。」泣きそうな表情の裕子。「どうしてそこまでして俺に会いに来たんだ?。」裕子は少しうつむいて黙っていたが意を決して話した。「あなたに初めて会った時、この人なら私を助けてくれるんじゃないか?私だけを愛してくれるんじゃないか?なんて直感したのよ。あなたと一緒に居られたらきっと末永く一緒に過ごせる、私をきっと幸せにしてくれると・・・そんな気がしたのよ。私の願いはきっと叶うと信じていたから今まで耐えられたのよ。失恋してさみしかったから・・・。」裕子は涙を流した。しかし貞行はすまなそうな表情になった。「ごめん、俺は人を愛せないんだ。色々あってさ。それに心に決めた人、いやドールがいるんだ。もうお迎えもしてしまったんだ。その子を裏切れない。だからごめん。」頭を深々と下げる貞行。「いいのよ。それでいいよの。嬉しいわ。お幸せにね。」裕子は笑顔を見せて再び電車に乗って去っていった。「はっ。裕子ちゃん?!え!夢だったのか?リアルな夢だったな。」等身大ドールの方を向いた貞行は何故か嬉しそうに見つめるメイちゃんを不思議そうに見つめた。「夢の中で裕子ちゃんを振っちまった。でもそれでいいような気が何となくするんだよな。いったいこの感情は何なんだ???。」少々思考が混乱したかのような様子の貞行であった。

 2024年1月、都内某所都心の高級マンションに一つの大きな荷物が届けられていた。その荷物は男性二人でやっとマンションの玄関に持ち込まれた。「おい!もっと丁寧に扱え!。」運送会社の作業員に対し横柄な態度で偉そうに言う村木真司は作業員にお礼も言わずさっさと追い返して巨大な段ボールを開けた。「今夜から早速楽しませてもらうぜ。」四苦八苦しながら全裸の状態でドールスタンドに立たせてヘッドを装着しヴィックを付けてその美しい全裸のボディを舐めるように隅々までじっと見つめる。ドールは初めて見るマスターに微笑んでいるように見える。「はじめましてご主人様。私をお迎えして下さってありがとうございます。ご主人様のおかげで私はこの世に生まれる事が出来ました。あなたが望むことは何でも受け入れます。どうか末永くおそばに居させてください。」そのような内容の可愛いピンク色のメッセージカードが添えられていた。ドールもお迎えしてくれたご主人様に微笑みかけているようでとてもうれしそうである。しかしそんなメッセージカードなど目にも入らない真司だった。「最新モデルだけあってよく出来ているぜ。」真司はいやらしく笑うと分割式の局部にホールを早速装着し数分間局部を触り続けた。そして胸を乱暴に揉みだした。「ゼリー胸選んで正解だったな。早速楽しませてもらおうか。」真司は全裸になりドールをベッドまで持って行きその日は一晩中性行為を楽しみ続けた。「バイアグラ飲んだから10回戦は行けるな。いひひひ。」いやらしく笑う真司。それでも笑顔のメイだった。翌日日曜日、朝9時、一晩中やりまくった真司は煙草をふかしてソファーに座っていた。「俺もまだまだ元気だな。でもさすがにやり飽きたな。」メイはベッドに全裸で横になっている。「奥の部屋をこの子の部屋にしよう。通販で買ったゴスロリ衣装着せてアンティークチェアに座らせれば貴族のお嬢さんっぽくなるかな?。貴族の令嬢を犯すなんてたまんねえぜ。清楚に着飾っていてもやりマンの非処女か!このギャップがたまんねえぜ。上品に見えても一皮ひん剥けばけがれたやりマン!くーたまんねー。」いやらしく笑う真司。手の届かない貴族や大富豪の令嬢を犯すというシチュエーションが真司の性癖を満たすものらしい。お迎えして昼間は清楚で豪華なドレスを着せて窓のない暗い部屋に監禁し、夜は性行為をするという日々が続いた。その行為も次第に過激になり、縄で縛ったり黒い半裸の衣装を色移り気にせず着せたりと見るのもかわいそうなぐらい酷い事を続けた。
 2024年3月、真司は日頃の職務怠慢がたたり名古屋支店に左遷された。ドールに夢中になり仕事はそれほど熱心にやらない真司だが親が会社役員という事もあり首だけは免れて名古屋支店に行くことになったのだ。「名古屋か~独身だしどこでもいいかな?。都内より家賃やすそうだから等身大ドールもう一体増やすかな。」
週末は引っ越しの準備に追われた。人望が無いので誰も引っ越しの手伝いに来ない。そして引っ越しの当日がやって来た。「こんにちはー引越センターでーす。」貞行と同僚の作業員が真司のマンションにやって来た。
いろいろあって等身大リアルドールを助手席に座らせて名古屋まで貞行はドライブする事になった。高速道路を走っていると貞行は何か声が聞こえたような気がした。「お願い・・・私を連れて逃げて・・・・もうあんな生活は嫌なの・・・」「ん?ラジオドラマかな?変な声が聞こえたような。」貞行は助手席を見た。「それにしてもリアルだよな。こんなに綺麗でスタイル抜群ならドールでも全然OKだな。でも高そうだよなあ。重いし。」助手席のドールは少しムッとした表情に見えた。
名古屋のマンションで真司が待っていた。ブランケットを被せて二人かかりでそっと奥の部屋に等身大ドールを運び込んだ。心配そうに見つめる真司。
全ての荷物を運び込み終えた貞行たちは気分の悪い客の真司に形だけの挨拶をしてさっさと帰った。「ふん、態度の悪い引っ越し業者め。二度と使うか!。」独り言で悪態をつく真司。「明日は日曜日か。早速ドールを連れてテントの中でプレイとしゃれこむかな?。」真司は引っ越し作業を手伝おうともせず体力を温存して翌日は早速最寄りのキャンプ場を予約していた。
 翌日の日曜日、真昼間から家族連れがいる中で真司はテントの中で全裸になりメイちゃんと性行為を繰り返した。「くーたまんねええ。俺がテントの中でこんなことをしているとも知らずにバカな家族連れだな。このスリルがたまんねええ。」救いようもない変態と化した真司は数時間以上もテントの中で行為を繰り返した。不審に思う家族もいた。「なんだか変な声が聞こえない?。」「気のせいだろ、あの人ソロキャンプみたいだし。気にしないでバーベキューしよう。」真司の変態行為を知らずに一般の家族連れはおのおののキャンプを楽しむことにした。メイちゃんはとても悲しそうな表情に見える。「お願い・・・・やめて・・・恥ずかしい・・・・。」悲しみの声は誰にも届かなかった。

2024年9月某日曜日、貞行は等身大ドールミュージアムにいた。巧に挨拶に来たようだ。「桜木さん、お久しぶりです。その節はお世話になりました。」「SNS見ましたよ。幸せそうじゃないですか。ドールちゃんも目が輝いていますよ。」「桜木さんのおかげですよ、お値引きもありがとうございました。でも大丈夫だったのですか?。」「あれから事後承諾もらえたので大丈夫でしたよ。しかしこれからは一言相談してくださいって言われましたけどね。」どうやら巧は自腹にはならなかったようである。巧は一つの紙袋を貞行に渡した。「同封するのを忘れてしまいました。すみません。これも付属品です。」「え!わざわざすみません。」貞行は早速袋の中身を確認した。すると・・・「これは・・・。」貞行が驚くのも無理はない。なんと紙袋には見覚えのある大きな指輪と黒縁眼鏡、それに綺麗な黒いストレートのセミロングのヴィックが入っていた。無言で立ち尽くしそれらを見つめる貞行・・・。「そうか・・・君だったんだね。・・・」指輪は新井裕子がはめていた大きな指輪と同じものだった。黒縁眼鏡も黒髪ストレートセミロングヴィックも同じものだった。貞行は笑顔になった。「メイちゃんだったんだね・・・なんだ・・・もう会えないと思っていたらもう会っていたんじゃないか。」訳が分からない巧。「児玉さん、どうかなさったのですか?。」「桜木さん、今あの娘の名前が決まりました。裕子です。」「いい名前ですね。きっと喜びますよ。」訳が分からない巧だったが貞行の嬉しそうな姿にその名前に心の底から共感した。
 急いで紙袋を持って自宅に戻った貞行は帰りに購入した白いシャツとピンク色のミニスカートを持ってメイ改め裕子の部屋に入った。裕子は貞行と目が合った瞬間微笑んだように見えた。「ただいま裕子。君だったんだね。本当に嬉しいよ。又会えたねっていうかすでに会っていたんだね。」涙が浮かぶ貞行。早速裕子に服を着せて眼鏡をかけさせてヴィックを交換し指輪をはめた。「この指輪はもう男避けじゃあないね。俺の恋人の証だよ。」貞行はそっと裕子を抱きしめた。裕子はとても安心した表情でしあわせそうに見える。END・・・


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