コンプレックス 28
■コンプレックス 28
しかし、ボクの方は簡単にはいかなかった。
まだKKRに籍がある時に「京都センチュリーホテル」の料飲支配人の話しがあり、面接に行ってきた。
京都センチュリーは、GMと総務部長がセゾン出身で、
ボクの今までの職歴をよく理解してもらう事が出来た。
面接のその場でGMより、
「うちの方はOKなので、あとはあなたがよく考えて判断してください。」と言われた。
考えに考えたが、どうも関西、そして京都という土地に違和感や拒絶反応を感じてしまう自分がいた。
先入観が強すぎだとは思うのだが、不安があるところでは力が発揮出来ないのでは?とも思った。
関西人や京都の土地柄に対して、新参者には厳しい土地であるという情報を沢山見聞きしていた事もあった。
そして、結果的にその話しは辞退した。
その段階ではまだ、なんとか福岡でさがす事が出来るのではないか・・という希望的観測があった。
しかし、良い話しなど無いまま辞める日を迎え、
失業保険をもらいながらも焦りはつのるばかり・・・
新しくオープンするモントレやその他に色々なコネを使って
なんとか入り込めないかやってみたが結果はダメであった。
いよいよヤバイ!と感じていた時に、
友人が「最後の切り札!」といってT山さんを紹介してくれた。
T山さんは、福岡○MCの初代会長を務め、
○ーホークの宴会部長を辞めた後、自分で惣菜屋を経営しながら
コンサルティングをしている。
○MCの顧問でもあり、業界では結構名前の売れている方である。
ボクも名前は色々な方から聞いていたが、面識は無かった。
彼はボクの職歴書を見て色々質問をしてきた。
ボクは普通に応えていたが、どうやら彼に非常に気にいってもらえたようである。
「福岡にもちゃんとしたホテルマンがいたんだなぁ!」
と、言われた。
そしてRイトン札幌が料飲の責任者をさがしている、
福岡ではこんないい話しは出てこない、
札幌で実績を作れば次の展開も考えてやる、等を話してくれた。
Rイトン札幌などというホテルを聞いたのは初めてである。
それと、福岡から札幌とは、えらい距離があるなぁ!とも思ったが、今更そんな事を言ってられる場合ではない。
その話しを進めてもらうようお願いした。
T山さんの紹介という事でRイトンの支配人はすぐにでも会いたい!と話は進んだ。
面接の旅費も先方が負担してくれるとのこと、日帰りで面接に出掛けた。
Rイトンはあまりにも大きなホテルで驚かされた。
しかし、ホテルらしさとか、暖かみとか、お洒落感の無いホテルだなぁと正直感じたのであった。
S水支配人からRイトンの開業からの色々な経緯を聞くことが出来た。なんだかややこしいホテルみたいである。
それゆえに私に頼る部分もあるんだろうと思うことにした。
先方からほどなくして、採用の連絡をもらった。
S水支配人は、現在の料飲課長(M本氏)の上にもってくると
拒絶反応があったりして、やりにくいと困るので、
タイトルは、支配人付料飲課長でお願いしたいとの事。
ギャラもまあまあの金額であった。
一連の流れを整理して考えた時、
まだ見えない部分が多すぎて、そこにすぐ家族帯同で行くのは
どう考えてもリスクがあり過ぎると思った。
これだけ仕事を変わっていれば、色々と見えてくるものである。
そして、何故かそういう「勘」は当たるのである。
とりあえず単身で赴任する事を決め、バタバタと札幌に移動した。
Rイトンで働き始めて、
S水支配人はいったい私に何をやらせたいのか・・・
さっぱり理解できなかった。
きちんとした紹介も無いままスタートしたというのが偽らざるところである。
料飲のスタッフの私に対する拒絶反応は、それは凄いものがあり、
中でもM本氏は、完全防御体制だった。S水支配人の配慮したタイトルなど全く意味が無かったようだ。
まあ、時間が解決してくれるものもあるかもしれないと、状況を見ることにした。
しかし、状況はなんら変化しなかった。
ある日、本社からN村部長という人事担当の方が来られ、
ボクと面談したいとのことで呼ばれた。
彼は一方的に、
このホテルの問題点は何だと思う?
どうやって解決しようと考えているか?
等々の質問をぶつけてきた。
丁寧に応えたつもりであるが、
彼はまた、自分の言いたい事を私に演説した。
Rイトンに来てから全てが不愉快であったが、
彼の登場は、それを上塗りしてくれた。
初対面なのに、何であんたにそこまで言われなきゃいけないんだ!何もかもが気に入らなく思えてきた。
○和○ゾートという会社に不信感をいだかずにいられなくなった。
そのN村部長の不愉快事件があってからほどなくして
正体不明、得体の知れないS水支配人から呼ばれた。
「大阪の本社の人事担当役員が面接したいと言っている。
面接といってもすでに働いてもらってるわけで、
それでどうこうも無いんだけど、課長以上は役員面接が必要になるんだよ!」
と、まことに意味不明なことを言われた。
また、今期の予算と実績及び上半期と下半期の見込、
そして利益についての質問があるかも知れない・・・
と言って、今まで見た事の無い資料を出してきて説明を始めた。
管理職として、そのような質問をされて詰まるようでは情けないと思い、数字を頭に入れていったが、
「これって、あんたの保身だろ?」
と思わずにいれなかった。
朝一番の飛行機で大阪に飛び、本社を目指した。
初めて訪れた本社は、Rイトンより数段立派なものだった。
人事担当の役員、確かS木さんだったと思う・・・
あとは、先般不愉快な面接をしたN村部長も同席した。
遠い所をご苦労様でした。と儀礼的な言葉のあと、
「どうですか、Rイトンの料飲は?どんな印象をもたれてますか?率直な意見を聞かせて下さい。」
この質問に対して、形式的な応え方をすると、
また、あ~だの、こ~だの言ってくるのだと思い、
ありのまま、思いのままを言ってやることにした。
「Rイトンのスタッフはロボットみたいなものです。
どんなお客さんが来ても、ひとつのやり方しか出来ない。
そして全く気持ちが込められていない。
スマイルなんて全然無い。
お客さんは100人来れば100人ともタイプが違います。
その違いをさぐって、見つけ、アプローチするのが我々の仕事と考えるが、
全く次元の違い過ぎ・・・と感じている。
あれではゲストも良い印象は持たないでしょう。」と、
なんと先方のリアクションは、
「私たちと全く同じ見方をしてますね!」
・・・なんだと!?何言ってんだ!
分かっているんであれば、あのアホな支配人でもちゃんとした人間に替えろ!
と言ってやりたい心境であった。
その他、2~3の質問があり面談はわずか30分位で終了。
なんとアホなS水GMが心配しまくっていた数字の話しなど一切出なかった。
たったあれだけの話しをするために旅費7万もかけて呼ばれたんだ!?変な会社?とつくづく思った。
その後、Rイトンでの仕事に変化も無く、
こんな意味の無い日々を過ごしていたら人間がおかしくなる!
と思う日々であった。
ある時、エドモント時代のGMでその後ホテル西洋銀座のGMをされた重田さんが私を訪ねて遊びに来てくれた。
重田さんは札幌にも知り合いが沢山いて、O田さんを私に紹介してくれた。
O田さんは以前ジャスマックホテルの社長時代、重田さんと知り合ったそうである。今は別の仕事をしているそうだ。
ボクは、地元のホテルに詳しいO田さんと色々と話をしているうちに、つい自分の悩みを打ち明けていた。
O田さんは、細かい経緯を十分確認し、そして理解した上で
「そんな事悩むことなんて何にもないさ。
Rイトンにいてもダメだと思ったら辞めて福岡に戻るのさ。
子供と一緒に暮らすのが一番、福岡でもあなたを必要としている所は絶対にある!
それがすぐに見つかるかどうかは努力しだいさ。
とにかく、なにやったって食べてはいけるさ。
一皿しかない貧しいオカズだって、家族で囲んで食べれば幸福だよ!」
と言われた。
眼から鱗であった。
私は今まで何を悩んでいたんだろ~と思った。
S水支配人に話しをする前に、紹介者であるT山さんに電話をして話をした。
T山さんの反応はすこぶる良く無かった。
「何を子供みたいな事をいってるんだ」
「福岡に戻ったって仕事なんてないぞ」
「人の顔に泥を塗るつもりか」
などと声を荒げていた。
あんたの顔に泥塗ろうが、なんだろうが、こっちの人生の方が大事だわい!と思った。
あんたの面子考えながら生きていたら良い結果にはならないとも思った。
T山さんの了解はもらえないようなので、それは良しとして、
S水支配人に話しをした。彼も意表を突かれた感じであった。
いかに私に気に掛けて見て無かったかが判明したようにも思えた。あの人の頭の中は、本社に対する報告の事しか無いようである。
そして利益よりも売上重視で、いかにして前年よりも売上を上げるか・・・
Rイトンでは、ディナーショーやら、なんやらとにかくイベントの目白押し。
そのイベントは毎回目標の1/3もいかないような売れ行き、
(一般には全く売れず、全て業者)、それでも売上にはなるのである。
当然そんなイベントやらない方が利益率は高まるのであるが、
単に売上をつくる為に次から次にやっているのだ。
月に3本開催なんてのも珍しく無い。
これは完全に麻薬中毒と一緒である!
売上を落としたく無い為に、儲けなんて関係無くなるようである。
本社もそれを黙認している。
ナンセンスの集合体みたいなものである。
そして、そういう体制に対して誰も
「おかしいんじゃないですか!」と言えないのか、言わないのか、
或いは興味が無いのか・・・
ボクはKKRで企画をやっていたので、イベントの収支についてはどうしても目がいってしまうのであった。
料飲のスタッフの中でも、色んな人がいて
ボクに対して好意的に接してくれる珍しい人もいた。
F田氏もその中の一人であった。
彼に
「イッタイこのホテルのコンセプトってなんなんだろう?スタッフの目がゲストに向いていないよね!」
と、問い掛けたことがあった。
彼は、
「課長、ここの人たちは『ホテルごっこ』が好きなんですよ。
『ごっこ』です。あくまで…」
う~ん、面白いことを言うなぁ~と思った。
妙に言い当てている。
ホテルごっこか・・・
S水支配人は、私の辞めたいという発言に対して
「まだ来たばかりだし、
これから色々お願いしようと思ってたんだ。
まあ、あせらずにもう一度考えて返事を聞かせてくれ」
と言うのであった。
何回考え直したって同じだわい!
と思ったが、相手の感情を逆なでても仕方ない。
「分かりました。」と一旦下がることにした。
その次の日だったと思う。
普段は私を避けまくって、ろくに口もきいてくれない完全防御の
M本課長から連絡が有った。
「S水支配人が飲みましょうって言ってます!」との事。
支配人とM本課長と、そして私の三人で飲む場を作ってくれたわけである。断るわけにもいかず三人でロイトンの中華で飲むこととなった。
途中から中華の料理長と和食の料理長も加わり、何だか賑やかな飲み会になってきた。
こういう飲み会をやってくれるんだったら、
来た時すぐにやってくれるべきで、いまごろやっても「手遅れ」なんじゃないの?と思ったが、黙っていた。
一度酒をご馳走になったくらいで、気持ちなど変わるわけが無い。
結果的にもう一度S水支配人と話をして、辞めさせてもらう事になった。
リクルートじゃらんの営業をやっている友人に
「せっかく送別会やってもらったけど、どうもRイトンというホテルは変なので、辞めて福岡に戻ることにした」
とメールを出した。
すると彼女から
「笹川さんからRイトンの話を聞いた時、
○和○イヤルか・・と思いました。せっかく決まった所を悪く言うのは良くないと思って黙っていましたが、○和○イヤルはかなり変です。担当者の問題かもしれませんが、私が担当している○イヤルは全て変です。私個人的には○イヤルチェーンは大嫌いです。辞めると聞いてほっとしてます。また福岡で飲みましょうね!」
という内容だった。
なんだよ~、そんな事もっと早く教えてくれよ~!
ただ、ボクの判断は間違って無かったんだとも思い少し嬉しかった。