旅の「記憶」Ⅲ.真っ赤に染まった大地
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Ⅲ.真っ赤に染まった大地
どこで、なにを間違ってしまったのか、予定の時刻を過ぎても、列車はバスへの乗換え駅、ポジポンシには到着しませんでした。
それに気付いて、寝ぼけ眼のまま、乗ってきた列車から着いた駅のホームに降りました。
名前すら知らない駅には、駅員が一人、所在気なさそうに私を眺めていましたので、サンジミニャーノに行くのはどうすればよいのか、その駅員に助けを求めました。
ところが、駅員はイタリア語をまくし立てるばかりで、私の英語は全く通用しません。
筆談に身振り、手振りを交えて、やや暫くたって分かったことは、私が列車の路線を間違って、この駅に来てしまったようでした。
まず、当駅から路線が分岐する駅まで引き返し、そこで乗り継げば、ポッジポンシに行くことができるが、次に引き返す列車が当駅を到着するのは、暫く後のことでした。
悪戦苦闘しながら、 考えられる表現方法を駆使して会話は続き、お酒、食べ物など、郷土についても花咲いて、待ち時間を楽しく過ごすことになりました。
ポッジポンシ駅からサンジミニャーノ行のバスに乗ったのは、陽が傾く夕刻でした。
バスが丘陵をあえぎながらサンジミニャーノにが近づくにつれて、夕陽に真っ赤に染まって、うねった葡萄畑が眼前に広がりました。
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トスカナの大地に陽が沈むこの荘厳な光景は、あたかも生きることの喜びを全身全霊で受け止めるかのように、息をころして、車窓からただ見つめるばかりでした。
サンジミニャーノは、塔の街として知られて、トスカナ地方の中世の宝と称され、塔の群像が織りなす景観は、街づくりの外部空間を構成するイメージとして、数多くの現代建築に取り入れられてきました。
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この日は秋の収穫祭で、街の中央の広場では、人々が民族舞踊や楽団パレードのイベントに繰り出し、大いに活況を呈していました。
トスカナ料理のスライスされた生ハム、サラミソーセジ、ペコリノチーズが盛り合わされた前菜に、パン、この村で栽培されいる葡萄で醸造された名物のワインが振舞われました。
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真っ赤に染まった大地を背景に、収穫をこの上ない至福とする人々と共に酔いしれて、喜びを分かち合う夕餉でした。