お迎え特殊課の火車8
第8話 天網恢恢、自業自得とはこのことかねえ(五)
病室の、ベッドの上には瀕死の罪人。
火車とクロベエ直属の上司葛乃葉と睨み合う。猫耳美少女フィギュアの九十九神に成った白猫。
それは昨年の梅雨頃、火車がやらかした失敗だった。
亡者のお迎えの最中、まだ寿命が大いに残っている白猫をうっかり驚かせ、ショック死させてしまったのだ。
おまけに、その白猫が、とある施設に置かれたフィギュアの九十九神に成った揚げ句、そのフィギュアが施設の中を夜な夜な歩き廻ると言う怪異の原因を作ってしまったのである。
その結果。罰として三十枚もの始末書を書かされたことを思い出し、火車は非常に嫌な気分になった……が、それらは全て自業自得である。
「昨年のあなたのポカの後始末を引き受けたのは私の息子」
猫耳美少女フィギュア姿の白猫と睨み合いながら、葛乃葉が説明する。
「あなたのポカが私の息子の眷族……つまり部下になったのよ。だから、あの施設の怪異は収まってるわ」
葛乃葉の息子、安倍晴明公は平安時代に活躍した有名な陰陽師だ。
彼は死後、神として奉られている。
「アンタ、あのフィギュアから離れて動けるようににゃったのかい?」
火車が白猫に声を掛ける。
「あ! 火車さん! 昨年はお世話になりました! ワタシ、晴明様の眷族に加えて貰ったので、お人形から離れて動けるようになったんです!」
白銀色の長髪、猫耳に猫シッポのある美少女フィギュアの九十九神に成った白猫は、間違いなく安倍晴明公の眷族に加わったようだ。
火車に挨拶しながらも、葛乃葉から目を離さない。
「ふぅ……火車。ちょっとその白猫の話し相手になってあげて、私はその間、息子に連絡するから」
軽くため息を吐いて、葛乃葉はスーツのポケットから携帯電話を取り出した。
「話し相手って……ええと……そうだ! アンタ、にゃんであの。施設内を歩き廻ったりしたんだい!?」
と、白猫に怒りながら問う。
「あの。ワタシ、何か駄目なことしましたか?」
が、惚けているのか本気で理解してないのか。
「人間に見られないように夜歩きましたよ?」
「それでもきっちり見られてるんだよ!」
すると白猫は、しゅん、と項垂れ、悲しそうな表情になった。
「確かに誰も居ませんでした。なのにどうして……」
「監視カメラですよ」
成り行きを見ていたクロベエが割って入る。
「かんしカメラ?」
白猫が首を傾げる。
「はい。あなたが居た施設がどんな物か、俺は知りません。でも、あなたのその姿から察するに、そこそこ大きな施設ではありませんか?」
白猫は首を左右に降った。
「そこそこ、じゃないの。物凄く大きな施設なの。本なども沢山あったの」
白猫の言葉を聞いたクロベエは、うんうん。と頷く。
「それなら尚更だと思います。監視カメラも沢山あるんでしょう。それらにあなたの姿が写っていて、人間にあなたの存在を認識させてしまったんですよ」
言いたいことは殆どクロベエが言ってしまったので、火車は葛乃葉のほうへ意識と視線を向ける。
「悪いわね。火車のお馬鹿の後始末を押し付けて。あなたの眷族に加わっただけあって、あの白猫なかなかに強いわね。私を前に怯みもしないわ」
どうやら京都の晴明神社と繋がっているようだ。
葛乃葉が話している相手は自身の息子。神と成った安倍晴明公で間違いないらしい。
「それでね。申し訳ないんだけど、あの白猫に下した命を取り下げ……え? 火車と代わって欲しい? お願いがある? ……ええ……ええ……ええ!? 良いの? あの白猫はあなたの眷族な――ああ、スピーカーフォンにすれば皆と話せるのね?」
葛乃葉は携帯電話をスピーカーフォンに設定する。
――と、いきなり葛乃葉の隣に、黒い烏帽子と白い着物に袴と黒い沓を履いた、火車とあまり歳の変わらぬ優男風な平安貴族の青年が現れた。
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