お迎え特殊課の火車7
第7話 天網恢恢、自業自得とはこのことかねえ(四)
火の車の荷台には四体の亡骸。
と四人の亡者が特殊なロープでぐるぐる巻きにされて転がされ、同じく特殊なガムテープで口を塞がれ踠いていた。
が、そんな些末な事柄なぞ気にもかけず、火車は本日最後のお迎えに行く。
目的の場所は病院だ。
件の亡者は、まだ亡者ではなく生きている。かろうじて、ではあるが。
正月三ヶ日が明けた一月四日。
罪人達は同時刻に不動明王様の炎と天神菅原道真公の雷を食らった。
それは人間には不可視の炎と雷。
罪人達は、即座に命を落とす『はず』だった。
――が、何故なのか一人だけ、身体のみならず魂までも炎に焼かれ、雷に打たれても生きている者がいた。
しかし、それも今日で終わる。
火の車が目的の病院に着くと、火車は再び妖力で黒雲の幻を出し、病院上空を曇り空に変えて行くくから。
クロベエはラジカセを膝に置くと、
「火車さん。何故ラジカセなんですか?」
スピーカーを手に持ちつつ質問する。
「にゃぜ? とは、どう言う意味だい?」
クロベエの質問の意図が解らず聞き返す。
「今時ならシガーライターのところにFMトランスミッターを付けて、それにDAPを付ける、と言う方法があります。FMラジオがついていればですが」
クロベエは、生前最後のご主人様が、自動車などの修理、復元の仕事をしているので、その手の知識には詳しいのだ。
「質問の意図は解るけどさ。アタシにゃ、ややこしいとしか思えにゃいんだよ」
火車とて火の車にCDプレイヤーを付けて、そこにスピーカーを付ければ、ラジカセを使わなくでも良いことくらいは解っている。
しかし、悲しいかな火車は歳を得た化け猫だ。
話すときも『な』が『にゃ』としか発音出来ないほどに年季の入った化け『猫』なのだ。
「他にも最近の車にはUSBも付きますしSDカード――」
「い、いや、その辺で止めとくれ。アタシゃ、ゆーえすびー。とか、えすでー。とかは解んにゃいんだよ」
三十歳そこそこの美女の姿をしていても、火車は婆猫なのだ。
「そうですか。まあ、この火の車にはFMラジオしかありませんしね。余計なことを言ってすみません」
クロベエは素直に頭を下げた。
「良いんだよ。アンタだって悪気があった訳じゃにゃいのは解ってるよ。じゃ、雷の音、流しとくれ。アタシは一足先に地上に降りてるよ」
火車はドアを開けて外へ飛びだした。
本性には戻らず、人間の目には不可視の状態で、音もなく目的の病院の出入り口前に降りる。
と……。
――ゴロゴロゴロ……。
雷の音が響き渡る。
次に、クロベエが火の車から降りて来た。
当然ながら音もなく、人間の目には不可視の状態で。
火車とクロベエは並んで病院の中に入って行く。
誰に見咎められることもなく。
「にしても、これからお迎えに行くヤツぁにゃんで生きてるんだろねえ」
火車の呟きをクロベエが拾う。
「不思議ですよね。……えーと、閻魔帳には『安倍晴明公の加護を授かっている』と書いてありましたね」
ぴくり、と火車の猫耳が動く。
「アタシゃ、嫌ぁ~な予感がして来たよ」
今日の朝、火車はお迎え特殊課の課長である化け狐の葛乃葉から、
「最後の一件は、私も力を貸すけど、あなたの昨年のポカも絡んでるから、しっかりやってよね」と、よく解らないことを言われていた。
火車とクロベエ直属の上司でもある葛乃葉は、山吹色の長髪をバレッタで纏め、パンツスーツを身に着けた、三十代半ばの美女の姿をしている。
そして、クロベエの口から名前が出て来た安倍晴明公の母狐でもあった。
そんな会話をしている内に、まだ生きている亡者……いや、罪人の病室に着くと――、
「にゃんでアンタ達がここにいるんだい!?」
葛乃葉と、猫耳美少女フィギュアの九十九神に成った白猫が睨み合っていたのだった。
#創作大賞2023
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?