![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/107970349/rectangle_large_type_2_1c2bf51923431ef8531505d7495c5d38.jpeg?width=1200)
お迎え特殊課の火車10
第10話 天網恢恢、自業自得とはこのことかねえ(七)
「で、何を企んでいるの? 童子丸。地上の神は基本的に冥府へは不干渉よね?」
童子丸は晴明の幼名だ。
「やれやれ。母上は騙されてくれませんか」
「当たり前でしょう。地獄逝き確定の罪人を護ったり、火車に眷族の名前を付けさせたり。そりゃ、私だって手駒が増えるのは嬉しいわ。あなたが私のことを考えて想ってくれてるのも嬉しい。でもね……」
葛乃葉の目尻がじわじわと吊り上がる。
「それ『だけ』ではないのでしょう? 何を企んでいるのか大人しく吐きなさい」
静かな声音だが迫力があって怖い。
さすがは火車の上司と言おうか、化け狐と言おうか……息子が母を想う気持ちが本物だと理解していても、その裏にあるものを見逃さない目ざとさを持っている
「実は、菅原道真公に頼まれたのですよ。冥府との|繋がりが欲しいと」
葛乃葉の怒りを受け流すように、晴明は平然と答える。
冥府とは閻魔大王の庁を指すが、死後の世界全域を指すこともある。
道真公が望んでいるのは、閻魔庁へ少しだけでも干渉出来る方法だった。それが実白である。
つまり実白は道真公に貸し出し予定の眷属なのだ。
葛乃葉は怪訝そうな表情になったが晴明の言葉の続きを待つ。
道真公は晴明神社で合祀されてもいるのだ。分霊で、勧請された御霊だが。
道真公本体(?)は九州の太宰府天満宮に居る。
「今回、道真公の社の巫女達が非道な目に会ったでしょう?」
それは葛乃葉も知っているので頷く。
「……母上は、まだご存じないと思いますが、その巫女の一人が自ら命を絶ちましてな」
「――え!?」
葛乃葉はスーツの内側に仕舞っていた閻魔帳の写しを取り出して開く。
「それは尼増のほうよ。そう書いてあるわ」
晴明は首を左右に降った。
「おそらく、記載漏れでしょうな」
「そんな――」
はずはない――と思いたい葛乃葉である。
「冥府とて間違いを犯すこともあるのでしょう。現世では未だに『あの』ウイルスが猛威を奮っているのですから、以前より忙しくなったのでしょうな」
葛乃葉は唇を噛みしめる。
「だから道真公は……」
(何かあったときの為、こちらの様子を知る手段が欲しかったのね)
葛乃葉は、口には出さず心の中で思った。
(息子の眷族でも火車が名付《なづ》け親ならば、干渉されたとしても自分のところで止められるわ)
本来ならば、実白は冥府……地獄か、動物の極楽寺浄土へ赴かなければならない存在だ。
しかし、火車の失敗で、九十九神と成り怪異の一つにまで成ってしまった。
実白はフィギュアの九十九神としてだけではなく、晴明の眷属となったことで色々な力が強くなっている。
――そう、だからこそ冥府に干渉出来るが、葛乃葉のところで止められるように、清明は火車に実白の名付けをさせたのだ。実白もそれを望んでいたから丁度良かった。
それにしても、晴明はどうやって閻魔帳の記載漏れを知ったのだろう?
どうやら、それは企業――ではないが――秘密らしい。
その方法は火車のみならず葛乃葉ですら知らないのである。
「……冥府のミスか……上に報告するわね」
葛乃葉は、息子である晴明へと力なく笑顔を見せた。
「大丈夫ですよ。母上のお手を煩わせる事態にはさせません」
晴明は、母である葛乃葉に優しく告げたのだった……が、しかし現世は未曾有の事態、これからどうなるのか、実のところ神の身でも分からないのであった。
――その頃、火車は、実白の名付け親になった意味を考えてはいたが……。
(……ま、あんまり深く考えにゃくても、多分、大丈夫さね)
色々飽きて来て、考えることを止めてしまった。
何しろ火車は化け『猫』だ。
そして、『猫』は気まぐれなものなのだから……。