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塗料メーカーで働く 第八十八話 ラドテックASIA

 11月12日(金)は 3日間行われたラドテックAsia‘93の最終日だった。         

 午前6時10分 平塚発東京行の電車に乗った川緑は 東京駅で京葉線に乗り換えて 8時30分頃 海浜幕張駅に着いた。

 午前9時頃 会場の日本コンベンションセンターに着くと 受付近くに 吉永課長を見つけた。  

 受付を済ませて会場に入ると そこには 展示物が置かれた2つのホールと 発表会場のコンファレンスルームがあった。

 二人は コンファレンスルームの方へ向かった。

 入り口近くに 松頭産業社 菊川課長と ケイトウ電機社の技術者の面々を見つけると 彼等に合流し 時間まで コーヒーを飲みながら過ごした。

 その後 会場に入り 発表の順番を待っていると ステージの奥の椅子に座っていたチェアマンは 「Mr. Kawamidori」と発表者を促した。

 壇上に上がり 小型マイクを胸につけて会場に目を向けると 座席に着いた300人程の傍聴者と 会場の後方から駆け込んでくる10人程が見えた。

 川緑は 彼らが席に着くのを待って 「Mr.Chairman Ladies and Gentleman, I‘d like to present our new simulation system we’ve derived.」と言って発表を始めた。

 発表の内容は UVカラーインクの硬化性を数値計算するシステムの開発に関するものだった。

 川緑は システムの概要と そのシステムを用いて設計したUVカラーインクの硬化性を 実際の実験結果と比較して示した。

 但し 新規事業部の責任者等の意向により 数値計算システムの心臓部になる 「硬化の理論」については触れなかった。

 川緑の発表は ほぼ時間通りに終わり チェアマンの合図で 質疑応答の時間になった。 

 最初に 挙手し 質問に立ったのは 川緑の前方にいた男性だった。

 彼は 係員からマイクを受け取ると UVカラーインクの塗布形状と硬化性に関わる因子 「硬化の空間的効率」について説明を求めた。 

 川緑は その因子を捉えた実験データを示し その現象を インク中に発生する活性種の存在を確率分布の重ね合わせで近似されると説明した。 

 説明中に 川緑の右手側の席にいた傍聴者の一人がうなづきながら聞いているのが見えた。

 川緑は 会場に集まった人達が 自分の研究に興味を持って聞いてくれていると感じた。

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