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塗料メーカーで働く 第九十五話 工場の対応

 2月10日(木)午前10時頃 生産管理課 大塚係長は UVカラーインクの大量注文の連絡を受けて 東京工場の関係各課に招集をかけた。

 連絡を受けて 生産管理課の居室に 製造課 製造技術課 品質管理課の担当者等が集まり 川緑も参加した。

 大塚係長は 電線メーカー各社から UVカラーインクの大量注文を受けたことを伝えて 「現状では 注文を受けることは不可能です。 どう対応したらよいか ご意見をお聞かせください。」と言った。

 担当者の多くからは なんとか注文に答えてインクを生産しようとの意見が出された。 

 話を聞いていた大塚係長は 「ご意見ありがとうございました。今回は 注文に対応するために 生産計画を見直します。」と言った。

 彼は 直ちにインクの原材料を追加発注し 製造日程を組み直し 納期に間に合わない注文分については 分納による納期調整を 菊川課長に依頼すると告げた。

 今回注文分への工場の対応は決まったが その一方で 川緑の予定していた新タイプのインクの試験製造については 割り込む余地が無くなってしまった。

 会議が終わると 川緑は 大塚係長に 「なんとか 新タイプのUVカラーインクの試験製造も平行して計画に入れてもらえませんか。」と頼んだ。

 係長は 申し訳なさそうに 「悪いけど 今回 工場サイドは 受注した製品の製造を優先するよ。」と答えた。

 係長の話を聞いていた製造課の木村さんは 川緑のところへ来て 「試験製造に使う仕掛品だけは 俺 休みに出てきて作ってやるよ。」 と言った。      

 川緑は 彼の言葉に 奇妙な感じを覚えた。

 製造課の業務は 技術のそれと違って 厳しく管理されていて 作業時間や製造量は計画通りに進められるものなので 彼の言動は不自然なものに思えた。

 川緑は 彼の顔を覗き込むように 「そんなこと できるんですか?」と聞いた

 木村さんは 黒縁の眼鏡越しに川緑を見ると 「川緑さんが せっかく いい製品を設計したんだ。 俺に任せろって 作ってやるよ。 このインクを世界中に広めてやるよ。」と言った。  

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