塗料メーカーで働く 第四十七話 仮説
1992年2月4日(火)午後2時頃 東西ペイント社で TKM会が開催された。
ケイトウ電機社 内藤次長 笹原氏 藤崎氏 須崎氏が来社し 松頭産業社 野崎部長 菊川課長は 彼等に同行して来た。
新規事業部 米村部長 川上課長 高野さん 川緑は 本館1階のロビーで 彼等を出迎え 「ようこそ お出でくださいました。」と言って 会議室へ案内した。
一同が着席すると 川緑は 「今日は UVカラーインクの硬化の理論の組み立てに必要と考える仮説の1つをご紹介します。 報告は 実務を担当します実習生の高野さんにお願いします。」と言った。
高野さんは 立ち上がると 用意していた報告書を配布し 「では 始めます。」と言って その内容について話し始めた。
彼は 報告書にある図案を指摘し 塗布したUVカラーインクにUV光を照射したモデルについて インク中の任意の体積素片の硬化性を数値化するための仮説について説明した。
彼は ある体積素片を考えた時に それに照射される光量の2階対数と体積素片の硬化性とは 1次の関係にあると述べた。
この考えは 昨年の実習生の浜崎さんの研究発表で提案されたUV硬化型樹脂の硬化性の関係式を 微小な体積素片に適用したものだった。
彼は 塗布したUVカラーインク中の任意の体積素片は インクの厚み方向に配置する位置により その硬化性が異なるという仮説を述べた。
報告の最後に 高野さんは 「この考えは UVカラーインクの開発やUVランプの開発に重要な役割を果たすと思われますが まだ仮説の段階です。」と言った。
報告が終わり 質疑応答に入ると ケイトウ電機社の笹原氏は 「仮説によって インクの表面付近の硬化性が悪くなる理由はなんですか?」と質問した。
川緑は 「良く分からないのですが 一般に樹脂の重合反応は分子同士の衝突によって確率的に引き起こされます。 そうすると 周りに多くの分子が存在する内部よりも 分子の数が少ない表面の方が反応は起こりにくいのではないかと考えています。」と答えた。
続けて 「今後 この仮説を検証して その効果を定式化して インクの硬化性を数値化する予定です。そのためには 懸案の分析装置が必要です。」と言った。
会議の参加者等は 今回の報告について 意見交換を行い 会議は終了した。
席を立った菊川課長は 川緑の近くに来ると 「川緑さん TKM会の活動で きっといいものができると思います。 がんばって進めましょう。」と言った。