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塗料メーカーで働く 第七十四話 研究報告

 3月1日(月)午後5時頃 川緑は 講堂の演台に立ち  OHPを点灯し 研究報告のテーマ 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」と書かれたスライドをかざした。

 傍聴席に座る 東京の工業系大学の栗田先生と会社の関係者等に視線を向け 「それでは 始めてよろしいでしょうか。」と言って 次のスライドをかざした。 

 彼は スクリーンに映された 「電線メーカー各社での光ファイバー開発の現状と課題」を ポインターで指し示し その下に書き添えられた内容を述べた。

 次のスライドで 光ファイバーの構造と製造方法を示し 光ファイバーの生産性向上とUVカラーインクの硬化性との関係を示し 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」の意義について言及した。 

 スライドを代えて UV硬化型樹脂の硬化性に影響する要因について インクの組成に関する要因とそれ以外の要因に分類して示した。 

 本題のUV硬化型樹脂の硬化の式について その誘導手順の説明から最終形に至るまでを 実験例を示しながら説明した。

 最後に 硬化の式を基に作成した数値計算ソフトで行ったシミュレーション結果と 各種UVランプとUVカラーインク各色を組み合わせた露光実験の結果とを比較して示した。

 「報告は 以上です。」と言うと やや間を置いて 栗田先生は 「よし では 最初から行こう!」と言った。 

 彼の指示に従い OHPに最初のスライドから順にかざして行くと 先生は 「あっ これはいい 次。」と言ってスライドを進めさせた。 

 スライドをOHPにかざしていくと 先生は 「体積素片の位置による硬化性の違い」を示したスライドの所で止めさせた。

 スライドは 塗布されたUV硬化型樹脂を構成する体積素片が その位置により硬化性が異なることを インクの重合範囲を示す正規分布の重ね合わせで説明したものだった。

 先生は 腕を組んで投影されたスライドを見ていると 「うーん とにかく こうすると 現象に よく合うんだなー。」と彼も同様の現象を経験していたことを話した。                       

 先生は 「この現象は 『硬化の空間的効率』とでも言った方が分かりやすい。」と言った。   

 次に 先生が注目したのは 樹脂の反応性に Saha の電離式を適用した資料だった。             

 それは UV硬化型樹脂の硬化反応の進行について 樹脂中に残される反応成分の量が減少することにより反応性が低下することを示していた。

 先生は 「うん 残っている数を議論する。 この考え方は分かりやすくていいね。」と言った。

 最も議論に時間を要したスライドは 「分光感度」について説明したものだった。 

 「分光感度」は UVカラーインクには 光のそれぞれの波長に対応して 特有な感度係数のようなものが有すると仮定して 実験結果から求めたものだった。
 
 スクリーンに表示されたスライドは 横軸に光の波長を 縦軸に感度係数を取ったグラフで その中に 波長310nm付近と波長390nm付近に極大値を持つラクダのこぶのような形が示されていた。

 先生は 「この曲線は いったい何を意味しているのかな?」と聞いた。               

 その曲線は キセノン分光照射機を用いて露光したUVカラーインクの硬化状態を顕微FT-IR装置を用いて面分析した結果の中のから 硬化度 0.5の地点の情報を基に求めたものだった。

 そこから言えるのは 「分光感度」は 硬化に関わるUV光の強度 樹脂の光の吸収 体積素片の位置の影響 酸素阻害因子の影響を除いた時に 見えてくる因子ということだった。 

 しかし それが何を意味しているのか 川緑は考えたことがなかった。

 少し考えて 川緑は 「分子同士の反応系では 横軸に分子間距離をとり縦軸にエネルギーを取った量子井戸をイメージしますが それを別の方向から見たものではないかと考えます。」と答えた。

 すると先生は大きな声で 「Quantum Yield !(量子収率)」と言った。 

 「ええ そうです。Quantum Yield です。」と川緑が言うと 先生は 「しかし こういう実験で それが求まるのか?」と不思議そうに言った。 

 最後に 川緑は 硬化の理論式を基にして求めたUVカラーインクの硬化状態のシミュレーション結果と 実際の露光実験結果とを比較したスライドを投影した。           

 栗田先生は 両腕を組み 投影されたスライドを見ながら何度かうなづくと 彼の質問を終えた。 

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<お知らせ> 今回の研究報告の詳細に ご興味をお持ちの方は 別途 掲載の 「川緑 清の【テクニカル レポート】 No.5」 をご参照ください。

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