塗料メーカーで働く 第八十七話 色違いトラブル
11月8日(月)午後6時頃 技術部の居室 川緑は 10日から開催されるラドテックAsia‘93向けの発表用資料を見ていた。
発表の時間配分を調整していると 松頭産業社の菊川課長から電話が入った。
彼は 重たい口調で 「大正電線さんから電話がありまして 先方は えらい剣幕で工場監査すると言われてます。」と言った。
大正電線社は 電線メーカー大手3社に次ぐ 4社の中の1社で 最近 新規事業部のUVカラーインクの採用を決定していた。
菊川課長は 先週 大正電線社の注文を受けて 東京工場からインクが出荷されたが その中に 先方の指定色とは異なる青色インクが入っていたと言った。
課長は 「東京工場の品質管理課に 色違いの原因究明を依頼してますが 川緑さん 何かあったら対応をお願いします」と言った。
受話器を置きながら 以前 事業部長の言った 「開発は遊びじゃない。基礎研究はやるな!」という言葉を思い出した。
もし この件で 技術部の対応が求められるようなら ラドテックには参加できなくなると思った。
11月9日(火)午前8時30分頃 川緑は 東京工場の品質管理課 坂口係長に電話した。
「坂口さん 大正電線社向けのUVカラーインクの色違いの件 原因は判りましたか?」と聞いた。
係長は 「申し訳ない。インクの色違いの原因は 工場の手違いでした。 他社向けのUVカラーインクを取り違えて発送していました。」と言った。
彼は 「今回の件は こちらのミスです。 大正電線社さんの監査の件は 東京工場で対応します。」と言った。
受話器を置いた川緑は ほっとしたのと同時に 電線メーカー毎に 異なる色のインクを提供する少量多品種生産は 工場サイドも混乱するのだろうと思った。