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塗料メーカーで働く 第四十三話 怒るやろな
9月3日(火)午前11時頃 松頭産業社の会議室 川緑は ナイコ・ジャパン社 営業担当の柳田氏と打ち合わせを始めた。
ナイコ・ジャパン社は 分析機器の製造販売を生業とする会社で 最新の顕微FT-IR装置を取り扱っていた。
川緑は 彼の考える実験の詳細を柳田氏に説明し ナイコ・ジャパン社の最新の顕微FT-IR装置を用いてその実験が可能かどうかを尋ねた。
実験は 平らな基板にUVカラーインクを薄く塗布し 分光した紫外線を照射したサンプルを作製し これを顕微FT-IR装置を用いて面分析を行い サンプルの微小なエリアの硬化状態を評価しようとするものだった。
面分析のエリアは サンプルの2cm×4cmの範囲で 分析は 2cm×4cmの範囲を格子状に分割した格子点約2000点について行うものだった。
川緑の希望する顕微FT-IR装置は 分析装置と顕微鏡とオートステージが連動しているもので 分析サンプルの1つの測定点について φ10μm エリアの測定が可能で ステージの移動ピッチが 数μmから数百μmであり 一日に 数千点の測定が可能なものだった。
川緑は 「このような測定が可能で それぞれの測定点で綺麗な形の赤外吸収スペクトルが取れて インクの硬化状態に関わる吸収の違いを定量的に取り扱える装置を探しています。」と言った。
柳田氏は 「弊社の装置で御社のご要望にお応えできるものがあるかどうか 一度持ち帰り検討してみます。」と言った。
彼は 「ご希望に沿うような仕様の装置につきましては 一式の価格が2000万円以上になります。 申し訳ないのですが デモ用の装置の貸し出しは行っておりません。」と続けた。
別の日に 川緑は 国内で顕微FT-IR装置を取り扱う分析機器メーカー数社を訪れた。
しかし いずれの会社からも川緑の希望に対応できる装置はないとの回答が帰ってきた。
彼等の保有する分析装置は オートステージの位置合わせの精度や移動速度において 川緑の希望に添いかねるとのことだった。
9月26日(木)午後4時頃 川緑は 分析機器メーカー各社の顕微FT-IR 装置の調査結果について それぞれの装置の性能とコストをまとめた報告書を作成し 川上課長と米村部長に提出した。
米村部長は 報告書の中に 丸印あるナイコ・ジャパン社のFT-IR装置の価格を見て 首を傾げながら 「2000万円ね。 稟議書を出してみるか。 しれっと。 怒るやろな。」と 「誰が」という主語を外して言った。