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塗料メーカーで働く 第六十八話 考えどころ

 1月23日(土) 休日 午前7時頃 川緑は 会社の居室に入り 部屋の電灯を点けた。

 技術部のメンバーの話し声や 電話の音の無い部屋は いつもとは違い 集中できる場所のように感じられた。
 
 彼は 懸案の研究テーマ 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」のまとめの作業に取り掛かり これまでの研究内容を振り返り 積み上げてきた実験データを見直し始めた。

  「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」を始めた時に 彼は 研究の目標を UV硬化型樹脂の硬化性を何らかの形で説明できること また 硬化状態を厳密に求められることとしていた。 

 目標達成のための研究方針は UVカラーインクの硬化性に影響する要因を洗い出し それぞれの要因の影響力を定式化することにより 硬化性を数値化することだった。

 これまでに得られた実験データの1つは UVカラーインクを構成する1つの体積素片を考えた時に 体積素片の硬化性が体積素片中の光重合開始剤に照射される光の量の2階対数に比例することを見出していた。

 また実験データの1つは 注目する体積素片の置かれた位置により その硬化性が異なることを表していた。

 また実験データの1つは 注目する体積素片の受ける酸素阻害の影響を示していた。

 そして昨年末に得られたデータは キセノン分光照射実験と顕微FT-IR分析で得られたUVカラーインクの分光感度のデータだった。 

 川緑は それらの報告資料やデータを見ながら それらを一つにまとめるアイデアを考えていた。

 イメージしていたのは インクの組成 塗布形状 UV光源の特性 露光量 酸素濃度等が変化した時に インクの硬化状態がどのように変化するのかを数値計算できる理論式だった。
 
 その式は UV光源の光がインクを透過していく時に どのように消費され どのようにインクが硬化していくのかを表現してくれると思われた。

 また その式は 光ファイバーの生産性向上に必要な UV光源とUVカラーインクの開発を可能にしてくれると思われた。

 そのような理論式を 誘導できるのかどうか ここが考えどころだった。

 川緑は 腕を組んで 「これまでに求めてきた硬化に関わる要因のそれぞれの近似式は 実験結果を再現していたから きっと その延長線上に 求める理論式があるばずだ。」と呟いた。

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