塗料メーカーで働く 第七十話 何か足りない
2月24日(水)午後4時頃 川緑は ケイトウ電機社のUVランプ開発品を用いて行った UVカラーインクの露光実験の結果をまとめていた。
実験は UVランプ開発品6個のそれぞれについて UVカラーインク現行品8色を組み合わせて行ったもので UVランプの露光時間とインクの硬化状態との関係を求めたものだった。
実験結果をまとめたグラフは 縦軸にUVカラーインクの硬化度を取り 横軸にUV露光時間を取り その中にインクの硬化度の変化をプロットしたものだった。
硬化度の変化は ランプとインクのどの組み合わせでも類似していて 硬化度の立ち上がり部分の変化は緩やかで 徐々に大きくなり その後 漸近的に飽和状態に近づく傾向を示した。
また グラフに示されたプロットは ランプの種類により インクの硬化性に優位差があり またインクの種類により硬化性が異なることを示していた。
その後 川緑は 独自の硬化の理論式を基に UVランプとUVカラーインクの組み合わせについて 実際に行った露光実験の条件に合わせて UVカラーインクの硬化性の数値計算を行った。
彼は 計算結果を 露光実験結果に重ね合わせて表示した。
双方の硬化度の変化の傾向は一致していて 計算結果が示すインクの硬化に有効なランプや 硬化しやすいインクの序列は 実験結果と一致していた。
一方 硬化度の計算値の曲線と実測値のプロットを詳しく見比べると それらに違いがあることに気づいた。
それは 計算値に比較して 硬化度の実測値が 露光時間が多いところで低い方へずれる傾向を示していることだった。
この傾向は インクとランプのいずれの組み合わせについても同様だった。
グラフの違いを見ながら 川緑は 「理論式には 何か足りない。」と呟いた。
足りない要素を掴むために 川緑は 硬化の式を構成する全ての因子について それらを定式化していった経過を確認することにした。
彼は 実験ノートをめくりながら それぞれの因子について まとめた記述を見直した。
その中で 「真の分光感度」 K(λ)を求めた過程を追っていた時に K(λ)が UVカラーインクの硬化度0.5 の地点の情報を基に求めたことに気付くと 「これか!」と声を出した。
もし UVカラーインクの硬化度 0.5 以外の地点のデータを基に K(λ) 求めた時に その値が変化するのであれば 計算したインクの硬化度にも変化が生じると考えられた。
そう考えると 何らかの反応系において 今回の結果の実験結果の様に その反応の進行と共に 反応性が低下する現象を記述した本が きっとあるはずだと思った。