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塗料メーカーで働く 第二十二話 社外発表
6月20日(水)から22日(金)の間 東京にある大学の校内で 第7回フォトポリマーコンファレンスが開催された。
最終日の午前中 B会場 そこは 50人くらいが入る教室で 森田課長と川緑は 定刻前に入ると 教壇に向かって左側の最前列に並んで座った。
定刻に発表会が始まり 1番手の発表者の北京大学の先生が教壇にたった。
彼は 手に持った紙に書かれた漢字を見て発音し 少し癖のある日本語で発表を行った。
二番手の発表も 三番手の発表も 発表者は 日本語で発表した。
彼等の発表の内容は どちらかというと製品開発から離れた学術的な研究で 彼等の発表の最後は 研究成果を将来の商品に繋げたいといった結びになっていた。
四番手の川緑は教壇に上がり 手持ちの原稿の順番を確認して 「発表は 英語で行います。」と日本語で断りを入れた。
彼の発表は 開発中の光ファイバー用のUVカラーインクの紹介から始まり UVカラーインクに高速硬化性が求められていることに触れ 発表テーマの 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」について述べた。
彼は UVカラーインクの硬化性をゲル分率で評価した結果と インクに用いる光重合開始剤の反応性を電気化学実験により評価した結果とを比較し考察を行った。
発表が終わり質疑応答の時間となると 最初に前から3列目の中央付近に座っていたダルム・ジャパン社の宇野氏が挙手をした。
ダルム・ジャパン社は 外資系の化学品メーカーで 光重合開始剤の製造販売を行っていて 技術担当の宇野氏は 何度か東西ペイント社へ商談に来たことがあって 川緑とは面識があった。
宇野氏は 「光重合開始剤の光の吸収ピークとインクの感度のピークは一致しますか?」と聞いた。
この質問は 光重合開始剤の設計にも UVカラーインクの設計にも 重要な意味を持つものだったが 川緑には その答えは判らなかった。
川緑は 彼の質問の意図を理解するのと同時に 今後 その質問に答えられるような研究が必要だと思った。
発表会が終わり 電車で帰宅中 川緑は 宇野氏の質問に答えるためにやるべきことを考えていた。
最寄の駅で 電車の扉が開き 川緑は 森田課長に 「お疲れ様でした。」と言ってホームに下りると 森田課長も 途中下車して降りてきた。
「どうしました?」と言うと 森田課長は 「近くで 一杯 おごるよ。」と言った。