塗料メーカーで働く 第十八話 研究発表会
12月1日(金)午前10時に 平塚事業所の講堂で社内研究発表会が開かれた。
150名程入る講堂の奥には 大きなスクリーンが張られていて その前に設けられた演台には 発表者用のマイクとポインターが用意されていた。
傍聴席は 講堂の前方から中央部まで長机が配置され 後方は立見席となっていた。
最前列中央には 技術本部長と研究本部長が座り その周りに各本部の部課長等が陣取っていた。
午後2時に 発表の番が回ってくると 川緑は登壇し 発表用資料を演壇に置き 指先でマイクを叩いて音声を確認した。
「では 報告を始めます。」 と言って スクリーンに映し出された発表のテーマ 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」をポインターで示した。
約20分間の発表時間の中で 彼は 新規UVカラーインクの開発の背景と開発内容と成果について述べた。
報告の骨子は 彼の考案した電気化学実験の内容と その手法を用いて求めた光重合開始剤の反応性の評価結果と その結果を基に設計したUVカラーインクの電線メーカー各社での評価についてだった。
川緑の発表が終わると 最前列の席で聞いていた吉岡研究本部長が質問した。
やや上背があり ふっくら体型 温和な表情と対照的な眼光の彼は 「電気化学の実験は 君が考えたのか?」と聞いた。
川緑は 「はい そうです。この実験は 硬化性に優れたUVカラーインクを開発するために考えたものです。」 と答えた。
すると研究本部長は 誰に言うともなく 「一度 チームリーダーの話を聞きたい。」 と言った。
次に 研究本部長の隣にいた有働技術本部長が質問した。
彼は 「君の開発テーマは 何人でやってるの?」と聞いた。
川緑は 「課長と私の2人です。 競合他社は UVカラーインクの開発に もっと多くの人手をかけているそうです。」 と答えたが その答えに対するコメントは無かった。