塗料メーカーで働く 第十五話 研究に着手
5月8日(月)午前10時頃 実験室から居室に戻った川緑は 川上課長と上司の森田課長に声をかけて彼等を居室の商談用テーブルに誘導した。
彼等がテーブルに着くと 川緑は 「ユーザーさんの要望に応えて 高速硬化タイプのUVカラーインクを開発する予定ですけど そのために UV硬化型樹脂の硬化性の研究をやろうと思います。」と言って その理由を説明した。
森田課長は 「そういうことは、できるときにやっといたがいいよね。」と言った。
川上課長は 「いいぞ やれ! どんどんやれ!」とエールを送った。
勿論 彼等は 所属部署の責任者の了解なしに このような業務を決める立場ではなく 川緑の考えに個人的に賛同するということだった。
日ごろの川上課長と森田課長の言動は 上層部を向いて仕事をするとか ご機嫌を伺うといったものではなく むしろ業務の方針等について 部長等に対して反発する場面が多く見られた。
川緑には 彼等の態度が職場に自由で明るい雰囲気を与えているように見えた。
元気づけられた川緑は 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」 を開始した。
机に戻った川緑は まず UVカラーインクの硬化性に影響する要因にどのようなものがあるのか調査を始めた。
文献や書籍等に記載されていた情報から UVカラーインクの硬化反応に影響する要因をノートに書き出し それらを インクの組成面に関わるものとインクの組成面以外に関わるものとに分類した。
次に それら要因のそれぞれが硬化性に与える影響を評価する方法を考え始めた。
川緑は 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」を進めるには 明確な目標と方針が必要だと考えた。
目標と方針がなければ 先々研究活動自体が方向性をなくし うやむやになってしまうと思った。
彼は 研究目標を 少なくとも得られる研究結果が UV硬化型樹脂の硬化性を何らかの形で説明できるもので またUVカラーインクの硬化性を厳密に比較ができることとした。
彼は 研究の方針を UVカラーインクの硬化性の向上を目指して UV光源の光エネルギーの消費経路と消費量を数値化し 光エネルギーの利用効率を良くする方向を目指すこととした。
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