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塗料メーカーで働く 第八十六話 最適なUVランプ

 8月2日(月)午前10時頃 ケイトウ電機社の放電灯事業部で 半年ぶりにTKM会が開かれた。

 放電灯事業部 内藤次長 森永氏 沼田氏が出席し 松頭産業社 菊川課長が参加し 東西ペイント社から米村部長 川緑が加わった。

 少しの雑談の後に会議が始まり 川緑は 用意していた報告書を参加者等に配り 「では 報告を始めます。」と言った。

 報告書の表紙には 「報告内容」と書かれていて その下に2つの項目が記載されていた。

 1つ目の項目には 「UV露光実験とシミュレーション結果の比較」と書かれていた。 

 次のページに 横軸にUV露光量 縦軸にUVカラーインクの硬化度を取ったグラフがあり その中に 幾つかのUVランプと幾つかのインクを組み合わせた実験とシミュレーション結果が示されていた。

川緑は 「双方のデータは一致しています。 このことは インクに最適なUVランプを 数値計算で求められることを示しています。」と言った。

 報告を聞いていたケイトウ電機社の森永氏は 「その計算では UVランプについて インクの硬化適性の比較はできません。」と言った。

 川緑は 「それは どうしてですか?」と聞いた。

 森永氏は 「UV光量は 光量計のセンサーの感度の影響を受けます。 計測した光量を基にしたシミュレーションの結果は UVランプ同士の比較にはなりません。」と言った。

 彼は UV光量計のカタログを開き 受光素子の感度特性を表示したグラフを示した。

 グラフを確認すると 川緑は 「報告書に示すUV光量は その感度特性で補正したものです。」と言った。

 川緑は 露光実験の際に UV光をスペクトルメーターとUV光量計で同時に測定し UV光量計の受光素子の感度特性で補正した光量を基準としていた。

 2つ目の項目には 「UV光の波長とUVカラーインクの硬化性」と書かれていた。

 本来 そこには  「UVカラーインクの硬化に最適な発光スペクトル」と書くはずだったが この日までに それを算出するソフトの作成が間に合っていなかった。

 そこで 川緑は 波長250nmから500nmの範囲の1nm毎のそれぞれの波長の光について 所定の条件でインクを露光した場合の硬化度の計算結果をまとめていた。

 それは 白色と青色のインクを用い それぞれ 5μmの厚みに塗布し 窒素雰囲気下で 各波長の光を 1mJ/c㎡ だけ照射したもので その条件下で計算される硬化度をグラフに示していた。  

 グラフは 横軸に1nm毎の光の波長を 縦軸にインクの硬化度を示したもので 310nm付近に硬化度の最大値を示し 385nm付近に極大値を示していた。

 川緑は 「本日の報告は以上です。」と言った。 

 内藤次長は 「分かりました。今回のシミュレーション結果を参考に ランプの試作を始めます。」と言った。

 彼は 続けて 「今後 TKM会の開発の成果を どう特許に落とし込みましょうか。」と言った。 

 彼は 今回の成果は知財化すべき案件で そうすることで3社の事業活動の際に 大きなセールスポイントになると指摘した。  

 研究成果の知財化の件は 一度 3社で持ち帰り検討することになった。

 川緑は これまでのTKM会に対する新規事業部の責任者等の対応を振り返り この話が進むことは無いだろうと思った。

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