塗料メーカーで働く 第八十九話 発表の反響
ラドテックASIA会場 コンファレンスルーム 川緑の発表が終わった。
チェアマンは 「Dr.Kawamidori, thank you for interesting presentation.」と言った。
傍聴者に向かって一礼し ステージを降りると 40歳くらい 中背細身の男性が近づいてきた。
彼は 「あなたの実験について聞きたいのですが お時間ありますか?」 と聞いた。
川緑は 「ええ いいですよ。」と言い 二人は コンファレンスルームの外へ出た。
外には商談用のテーブルが設置されていて 彼等はテーブルにつき 名刺を交換した。
受け取った名刺には 関東循環器センター 生体工学部 杉野工学博士と書かれていた。
彼は 「UVカラーインクの厚み方向の硬化の状態を分析した実験の詳細について教えてください。」と言った。
川緑は 実験の手順の詳細を説明すると 彼は その内容をノートに書き留めていった。
「ありがとうございました。」と言って 席を立って行った彼を見ながら 川緑は 生体の表面付近の細胞に 何か特異な動きがあるのだろうか。」と思った。
昼休み時間 川緑は ホールの展示会場を見回っていると 前方から 5名の男性が近づいてきた。
彼等の先頭を歩く男性は ケラリー・ジャパン社の平木事業本部長で 以前に面識があった。
ケラリー・ジャパン社は UVランプの製造販売を生業とする会社で 光ファイバー用途に無電極タイプの新商品を展開しようとしていた。
平木事業本部長は 「ああ 川緑さんだ。」と周りのメンバーに注意を促すように言った。
彼は 川緑に 単刀直入に 「UVカラーインクの硬化に最適なランプとはどのようなものですか?」と聞いた。
川緑は 「UVランプとインクのマッチングには インクの硬化性に影響するいくつものパラメータを同時に比較することが必要です。」と伝えた。
部長は お礼を述べて 「川緑さん いつでも うちのラボに来てください。」と言った。
午後の部が始まり 東西ペイント社 新規事業本部研究部の2人の発表があった。
全ての発表プログラムが終わると 会場の近くのグリーンホテルの宴会場で ラドテック研究会主催の立食パーティが開かれた。
宴会場のテーブルには 刺身の舟盛りや寿司やスパゲティやピザやデザートや飲み物等が数多く並べられていた。
宴会場の一角に 東西ペイント社の参加者等が集まっていると 新規事業部の杉本部長がやって来た。
彼は 皆を 近くにいた下村社長のところへ連れて行った。
杉本部長は 社長に挨拶すると 川緑達の方を指して 「彼等が当社の発表者達です。」と言った。
振り向いた社長は 「君たち これからは 世界の中で活躍しないといかん。」と言い 「どういうところでも 東西ペイント社は一番でないといかん。 そう思わんかね。」と言った。
川緑は 「そのために必要なことは何でしょうか?」と問いたかったが 口には出さなかった。