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皆既月食とラーメン ほんにゃら日記005 2000年7月

スクチャイのむちゃおもしろ日記005「ほんにゃら日記」2000年7月

大宇宙の天体ショー「皆既月食」が厳かに進行している夜空の下、吾輩は黙々とラーメンを食べていた。

7月16日日曜日、近所に九州ラーメン「どんたく」が開店したのであった。

当日に限り、「基本ラーメン」というのが300円。
普段は630円だから半額以下なのである。

皆既月食というものは月に行けば皆既日食であり、黒い空にまばゆく輝く太陽が、大きい地球の影に入ってしまう現象である。

そのとき、あたりは赤銅色に見えるはずである。

地球の大気が太陽光を乱反射させて月に届くためで、地球から月を見ても、皆既中は真っ黒にならずに赤みを帯びて見えるのはそのためである。

その乱反射の具合は大気中の粒子の多少によって変わる。

塵が多いと乱反射が大きすぎて、月に届く光が少なくなる。

例えば大火山の噴火の後の皆既月食である。
メキシコのエルチチョン火山が噴火した後の1982年12月の月食や、フィリピンのピナツボ火山が噴火した後の1993年6月の月食は、かなり暗い月食として観測された。

一方、地球大気中に粒子が少ないと、月はオレンジから黄色っぽく見えるのである。

22時55分に月は地球の影のほぼ中心に入った。吾輩は今し方見てきたのだが、どちらかと言えば暗いような気がした。

幼少時に見た鮮血のような気味の悪い月ではなくて、今日の月は凝固しかけた静脈血のようにどんよりしていた。

さて、そのような孤独な宇宙空間でのロマンチックな太陽-地球-月の演じる天体ショーのさなか、地球上のある一点で、人類のひとりである吾輩は、黙々と「九州ラーメン」をすすっていたのである。
 
ラーメン屋と言えば、長年修行を積んできた親父さんが眉間に皺をよせてスープの加減に神経を使っており、店員がその親父を中心に従順に働いている、という光景を思い浮かべてしまう。

それがまた旨さを期待させる重要な要因となるのであるが、はたして本日開店の「どんたく」では年格好がよく似たおばさん6人が公平に立ち働いていたのであった。
 
しかもおばさんたちの人間関係はすでにバッチリできており、聞いたわけではないが、どうも、熊取周辺の仲良しおばさん同士がお金を出し合って、このフランチャイズ・チェーンのラーメン屋を開こう、と、カラオケ屋かどこかで話し合って決めたように見えるのであった。

「ああら、角煮、12時まで持たないわよ。もうお汁もないし、どうしよう」

などという内輪の声までよく響き渡る店内であった。

さて、吾輩の前に運ばれてきた開店早々の基本ラーメン。

「基本」というのは角煮、メンマ、ネギが主役のラーメンで、まあ、この店の顔でもあるかもしれない。

いつもは630円のこれが今日は300円で食えるのであった。

周囲を見回してみると、お客のほとんどがその300円ラーメンだけを注文しているようであった。

大阪体育大学の学生とおぼしき肉体派の男子学生4人組や、近所に住んでいるのだけど、300円だからちょっと味見に来てみたのよ、という感じのおばちゃんや、俺はいろいろなところで旨いラーメンを食ってるんだぞ、というアピール性の雰囲気が半径1メートルに漂っている、小太りの眼鏡男や、月食を見るためにはどうせ腹が減るだろうから300円でまずは腹ごしらえをしておくか、という吾輩などで約10名。

夜10時過ぎにしては、まあ、ほぼ満員御礼であった。

で、そのお味。

香ばしいブタの背脂、濃厚な豚骨スープ。

レンゲですくった最初のスープには感激・・・。

しかし、いかんせん、濃い!

「濃いぞお! おばちゃあん!」

濃い系のスープが好物の吾輩でも、いやあ、さすがに濃い。

・・・といいつつ一滴も残さずに全部平らげたのであるが・・・

ここは関西だぞ。この濃さでやって行けるのかや?

仲良しこよしの6人のおばさんに「また来てね」と愛想よく見送られた吾輩。

よし、一ヶ月後にまた来よう。

熊取駅下がりだから、どこかから帰ったついでに、また寄ろう。

そのとき、はたしておばさんはまだ仲良くやっているのか。

また、客は入っているのか。

まあ、楽しみではあるね。

ほんにゃらら~

(おわり)※このラーメン屋は2024年9月現在消滅しています。

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