NEUTRINO謡子が唄う「通りゃんせ」
今回は、DTMer向けの話題です。
今年初めにリリースされた、AIによる合成音声システムのNEUTRINO。
そのレビュー記事です。
音学長殿は出て参りません。m(_ _)m
NEUTRINOは、ヤマハのボーカロイドとは全く違う、音声シンセサイザ―の一つです。
AIにいろいろな歌を学習させることで、非常に人間的な歌い方が可能になった優れもの。
そう聞きまして、使ってみました。
そのレビューの前に、このNEUTRINOを使って制作した自作のアレンジ作品について、まず紹介しておきたいと思います。
童謡アレンジにご興味をお持ちの方は前半を、NEUTRINOに関心のある方は後半を、それぞれお読みいただければ、と思います。
この作品は、最初に通りゃんせのピアノソロアレンジを作りまして、その歌メロ部分にNEUTRINOの謡子さんを後付けして作ったものです。
タイトルは通りゃんせ Molto Grave
Molto Grave(モルト・グラーヴェ)は「非常に重々しく」という意味のイタリア語。
Graveには、物理的な重さよりも精神的な重さ・重圧感といったニュアンスがあるそうです。
有名なベートーヴェンの悲愴ソナタの序奏には、このGraveが発想記号として付けられていまして、ピアノの重い和音の響きの中に、精神的な重圧感が込められた傑作と思います。
Graveにはテンポを指示する記号としての意味もあります。
重々しく演奏しようとすれば、当然テンポは遅くなる。
ということで、例えばメトロノームでは、一番遅いテンポの記号として表示されています。
このアレンジでも、普通に歌われる通りゃんせと比べますと、かなりスローテンポにしてありますし、重々しい雰囲気にもなっているのですが、実はタイトルにGraveを付けたのはもう一つ理由があります。
graveはイタリア語でグラーヴェですが、英語読みするとグレイヴ、つまりお墓。
いわくありげで不気味な通りゃんせの雰囲気は、むしろそういう意味に引っ掛けたほうがいいと考えまして、タイトルの中に入れました。
したがって、かなり暗いアレンジになっています。
さて、お待たせしました。
ここからがNEUTRINOのレビューです。
「AIにいろいろな歌を学習させることで、非常に人間的な歌い方が可能になった」と言われているNEUTRINOですが、果たしてどうか。
通りゃんせを学習してあるか知りませんが、少なくともこんなにスローテンポな通りゃんせは、たぶん歌ったことがなかろう。
そう思ったことも、このアレンジ制作の目的の一つでした。
映像の左側は、謡子さんの発声を解析した動画です。
メロダインというツールを使っています。
映像の右側はピアノ音源ですが、これは単なる装飾といいますか。^^;
無視してください。
謡子さんの発声を視覚化して見ますと、ビブラートにしても、ロングノートを発声中のピッチのずらしにしても、あまりパターン化していないことに気が付きます。
また視覚化できませんが、声のかすれなどもあって、非常に人間的な歌唱になっていると思います。
一般的に使われているボーカロイドでは、ユーザーがそれぞれの好みでビブラートを付けたり、ピッチをずらしたりといったコントロールができます。ところが、このシステムは全てAI任せです。
音声ファイルを作成する時に、全体的な調整はできるようですが、ピンポイントにコントロールすることはできません。
音楽の流れを元に、AIが自動的に判断して歌を作ります。
歌い方は歌い手さんに任せる、といった考え方をする必要があります。
もちろん、メロダインのようなツールを使って、通常のボーカロイドと同様にノート毎に調教することは一つの方法です。
メロダインに限定しませんが、音のタイミングを調整するツールは絶対に必要です。
というのは、少なくともバージョン0.300では、テンポチェンジに対応していないからです。現時点での最新バージョン0.320(2020/07/10)の動作は確認していませんが、それについてはNEUTRINOのウェブサイトに何もコメントがありませんので、たぶん対応していないと思われます。
テンポとして、最初に指定した数字だけを使って、音声を作成しているようです。
リタルダンドすらできないのは非音楽的、と思うのは、私だけではないと思うのですが。
その対処法の一つは、NEUTRINOに食べさせるmusicXMLファイルを作る前に、音価を調整すること。
ただ、この場合は音価の調整自体が面倒だし、楽譜ソフトだとタイの付いた128分音符が平気な顔で出てきますから、あまりやりたくない。
とすると、出来上がった一本調子の音声データを、メロダインでタイムシフトしたり、伸縮させたりする方が簡単。
にしても、やはりテンポの変化に対応してもらいたいところです。
今日はここまで。
ただ、レビューは総説という意味ですので、これでは全然レビューになっていない。
ということで、ここでお終いにするのは気が引けるのですが、今後また、気が付いたことがあれば記事にしたいと思います。
何にせよ、このNEUTRINO、現時点ではタダですし、あれこれ工夫して使う楽しみもある。
ということで、取りあえず〆とさせて頂きます。
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