万葉集 × poohさん = ?
これは、noteのユーザーさんのハンネを元にして音楽を作る個人的なプロジェクトの紹介記事です。
今回は初回ということで、ちょっと変わっている(かもしれない)私の作曲法についても紹介したいと思います。
1.プロジェクトの発端
以前、名前からメロディを作るという記事を書いています。
これは、モーリス・ラヴェルがハイドンの名前でメヌエットを作った前例に倣って自作した夜想曲の話題です。この記事でコメントを書いて下さった皆さんのハンネを元に、曲を作るお約束をしました。それがこのプロジェクトの発端です
2.今回に使わせていただいたハンネは「pooh」
最初の事例として、上の記事で最初にコメントを頂いたpoohさんのお名前をお借りして一曲作ることにしました。
poohさんは、mikepunchさんの毎朝の投稿記事、通称「朝の談話室」でいつも一緒にお茶を頂いている方です。個人企画コレクターと伺っています。
そのpoohさんが満を持して始められた初企画は
「 #あなたの推し (おし)note教えて」
この企画は、特に好きな記事を一つ選んで、推しまくるというもの。
私は、その企画に興味を持ちましたが、推しnoteを紹介する時間がなかなかとれませんので、サポートという形で応援させていただくことにしました。
そうしましたら、程なくnoteからうれしいお知らせが。^^
「オススメ」した記事がたくさんスキされました!
3.「poohさんのテーマ」をどう作るか
メロディは、モーリス・ラヴェルの方法に準拠してpoohさんのお名前から作ります。
poohさんのお名前は、音名表記で「AGGH」というメロディになります。
これはハ長調の階名で読みますと「ラソソシ」です。
ソが二つ並んでいますが、基本的に「ラソシ」という音の順で構成されたメロディです。
リズムには、特に決まりがありません。
また、次の音の前であれば、同じ音を何度続けてもよし。
例えば極端な例ですが、「ラソシ」を「ラララララソソシシシシ」としても構わない。
今回、poohさんのハンネで作る曲は、歌の曲にしようと考えました。
作り方の基本方針はこうです。
まず、出だしの歌詞の抑揚に合わせて、同音連続も含めた「ラソシ」のリズムを決めてやって、それを「poohさんのテーマ」とする。
「poohさんのテーマ」は曲中で何度か、主メロと伴奏の中で使う。
出だしの歌詞以外は、その抑揚に合わせてメロを作っていく。
4.歌詞に何を使うか
歌詞選びは、「poohさんのテーマ」の基本骨格である「ラソシ」の響きによって決めようと思いました。この「ラソシ」はハ長調として読んだ階名表記でして、絶対的な音高を表す音名で表記すると「AGH」になります。これをト長調で読めば「レドミ」、二長調で読めば「ソファラ」になります。それ以外の長音階では♯か♭が入りますので階名では歌えません。
私はト長調で読んだときの「レドミ」に注目しました。というのは、ト長調で読みますとシとファが抜けたいわゆるヨナ抜きのメロディになりますので、和風のメロになる。
お会いしたことはありませんが、poohさんのイメージは和風なんです。poohさんは英語が堪能で医学雑誌の翻訳もされていますが、何と言っても和太鼓をやっておられることが私には印象的だった。
実は和太鼓は、私の姪もやってまして、特に和風を感じるような女性ではないのですが、和太鼓をやっている時点で和風である、というかなり強引な論法で、テーマは和風のヨナ抜き、つまりト長調の「レドミ」で行くことにしました。
そうしますと、当然ながら歌詞も和風がいいということになりまして、偶然見つけた吉隠ゆきさんの記事を思い出しました。
この記事では、吉隠ゆきさんがご自身で作詞作曲された歌「星の夜」を弾き語りで歌われた作品が紹介されています。その歌詞には、平安~鎌倉初期の女流歌人「建礼門院右京大夫」の和歌が織り込まれているんです。
そういうコンセプトで作られた歌を、私はそれまで知りませんでしたので、とても面白いと思った次第です。
私も同じように作ってみたかったのですが、詩才が皆無の上、弾き語りもやったことがない。
で、時々見かけるやり方ですが、和歌にメロディを付けた短い曲を作る方向でいこうと考えました。
和歌は、この季節に合うものを著作権が切れた古い歌集から探す。
たいていの短歌や和歌は、曲になるはず。
そう思ってnoteを捲っていましたら、なおみ@le_bouquet_style さんの記事が目に留まりました。
こちらに、万葉集の額田王の歌が紹介されていました。
これなら著作権も1000年以上前に切れている。
それに「秋の風」が出てくるから、季節もぴったり。
というか、なおみさんが今の季節に合わせて投稿されたんですね。^^
君待つと
我が恋ひ居れば
我が宿の
簾動かし
秋の風吹く
額田王 (万葉集 第4巻 488番歌)
この歌の解釈については、なおみさんの記事をご覧下さい。
私からは、こちらになおみさんのお言葉を紹介させていただきます。
なんてたおやかな
31文字
日本語は美しい。
日本人に生まれた幸せを今朝もかみしめております。
とても心に響くお言葉です。
ということで、歌詞も決まりました。
後は、曲を作るだけ。^^
5.歌詞への付曲
さて、曲付けです。
メロが「poohさんのテーマ」で歌詞が「額田王の詠んだ和歌」という方針で曲を付けます。
出だしはト長調読みの階名で「レドミ」です。
歌詞が和歌ですから、拍子は4拍子。
つまり最初は「タ・タ・タ・タ タン ウン」になる。
(タ・タ・タ・タは八分音符、タンは四分音符、ウンは四分休符です)
最初の五文字「きみまつと」のうち、5番目の「と」は切れ字ではありませんが、区切りの助詞ですから、ここはpoohさんのテーマとは別に、新たに音を加えた方が良い。
とすると、最初の4文字「きみまつ」を「レドミ」と歌うことになります。「きみ」のイントネーションは、たぶん標準語では平坦か、やや後ろ上がりです。君が代では「きみ」を「レド」と後ろ下がりで歌わせていますが、これでは頭にアクセントが付いた「きみ」ちゃんになっちゃう。まあ、親しみを込めて「天ちゃん」と呼ぶ人(私の家内です)もいますから、きみちゃんも親し気でいいという感じもしますが。^^
それはともかく、ここではレを2つ並べて「きみ」を平坦にした「レレドミ」が一番自然に感じます。また、五文字目の「と」は新たに「レ」で受けるのが一番和風な感じがします。
ここまでで、最初の5文字分のメロディ「レレドミレ」ができました。
この「poohさんのテーマ」ができたところで、もう曲は大方完成です。
って、まだ残りの26文字分ができてないじゃないか
でも大丈夫、これでできたも同然なんです。
このあとは言葉のイントネーションに気を付けて、伴奏込みで即興的に出来上がります。それから、伴奏との音の響き合い(ハーモニー)を自分の好みで調整するのですが、そのあたりは言葉で説明できません。
6.印象的な楽曲構成にする工夫
歌の曲では、必ずと言っていいほど前奏が入りますし、私は後奏も入れることが多いです。
この曲では、ちょっと和風の前奏を入れることにして、それを後奏にも使うことにしました。
また、前奏のあとに、5.で説明した「poohさんのテーマ」に乗って歌が入るのですが、いきなり入れるのではなくて、テーマをあらかじめ伴奏で2回先触れさせることにしました。これはテーマの印象を強くする方法の一つです。ただ、先触れで同じものを2回使いますと、3回目の歌の入りで、「もう飽きた!」となりますから、変化を付けるのが普通のやり方です。ここでは上下に平行移動です。そのため、先触れの一回目はト長調の「レレドミ」ですが、歌の入りでは少し変化して同じくト長調の「ミミレファ」になっています。ファが入りましたので、もうヨナ抜きではありません。このあたりの歌の入りは、和風趣味のポリフォニックなクラシックスタイルといった感じかもしれません。私のお得意のパターンです。
また、たった31文字の歌ですので、少しメロを変えた歌をもう一度繰り返しています。その間に間奏も入れました。ごく短い間奏ですが、気分を新たな高揚感に導くのが狙いです。
7.曲のタイトルと動画紹介
暫定ですが、曲のタイトルと副題を次のようにしました。
額田王の詠める『君待つと』― poohさんのモチーフによる
よろしければお聴きください。
歌はボカロの謡子さん。
ピアノ伴奏もDTMです。
額田王の詠める『君待つと』― poohさんのモチーフによる
作詞:額田王(万葉集 第4巻 488番歌)
作曲:古い音楽帳(音楽帳工房)
主要モチーフ:AAGH
歌:NEUTRINO YOKO
そうそう、最後に補足があります。
こちらで紹介したハンネによる作曲法は、今年になってから試みているものでして、いつもこんな変な方法を使っているわけではありません。
詞に曲を付ける場合、普通は詞のイントネーションとリズムを基本にして、メロを作ります。
器楽曲は、降りてくるメロを使いますが、沸いてくるメロを使うこともあります。(どう違うのか、よくわかりません^^)
あ、それから私の古い音楽帳には中坊の頃作った曲がたくさんありまして、そこから気に入ったメロを持ってくることもあります。
それは音楽だからできるんでしょうね。
文章だと、まずできない。中学生時代の日記とか絶対にやりたくない。
いや、音楽だから、ではないですね。
たぶん私の作る曲が全然進歩していないからでしょう。^^;