桑沢のこと話します。
タイトルを見て、桑沢とやらの何かを暴露する攻撃的なnoteだと思いクリックした方すいません。これは渋谷にあるデザイン学校「桑沢デザイン研究所」の卒業生として桑沢に興味がある高校生やその他の人に向けて講演したものを文章に再編集したもの。僕は学生時代など話を聞きながらメモとか取るのしんどいなぁと思うタイプだったので、ここにあげることにしました。というか、メモ取ってもほとんど見返さない。なので桑沢に興味ない方、絶えずなにかの暴露が気になって仕方ない方はこのnoteを閉じて頂き、他のユニークに富むコンテンツを満喫することをおススメいたします。
前述した通り、桑沢デザイン研究所は渋谷にあるデザインの専門学校。代々木体育館の向かいにある真っ黒い一見不気味なビルです。僕は最初見たとき「2001年宇宙の旅」に出てくるモノリスかと思いました。あれくらい黒くて四角いです。事実は分からないのですが、桑沢は日本で最初にできたデザインを学ぶ学校みたいです。僕はここでグラフィックデザインを学び、現在はデザインの仕事をして、大好きな乳酸菌飲料を買って飲んでいます。
卒業して感じた事ですが、桑沢は手っ取り早くデザインを学ぶには良い環境だと思います。その理由を話します。
① 桑沢の良いところ
⑴ 渋谷にある
卒業して特に感じたことですが、渋谷にデザイン学校があるというのは大きなアドバンテージだと思います。インプットがたくさんできるから。
桑沢の周辺には美術館・アートギャラリー・映画館などが大小合わせて50以上は余裕であります。それもどこへ行くにもほぼ30分以下。実際に僕も授業終わりにこういう所へ足を運ぶこともしばしばでした。別にインプットしてやるぞと常に血眼でここらを駆け巡っていたわけではないけれど、やっぱり近くでやっているとプロの作品を生で観たいという好奇心に身体を引っ張られていました。遠くにあると、どうしても行く時点で諦めてしまいがちです。
ここである比較をしてみます。某有名美大、T美と桑沢でワタリウム美術館へ行く場合にかかる時間です。T美の方は、バスで橋本駅→明大前駅→渋谷駅→外苑前駅→ワタリウム美術館と、合計で1時間20分かかります。対して桑沢は渋谷区役所からバス→ワタリウム美術館とかかる時間はわずか20分。つまり桑沢の人は某有名美大の人たちより1時間得することになります。この1時間で何ができるか。他の展示にも行けるかもしれないし、課題をこなす時間に当てられる、映画だって観れるもしれません。極端な設定の比較だし、授業ない日に行くわ!みたいなこともあると思うので、一概に得をしていると言えませんが、それだけ桑沢は色々便利ということです。
話が少しズレますが、クリエティブの仕事をする上でインプットとという行為は日常的に行う大事な行為だと思います。よくデザインなどの行為は素人の方から「何もない無の状態から有を生み出す、神とほぼ同じ能力」だと思われがちですが、そんなことは決してないです。あるテーマに対して、いろんなインプットを掛け合わせながら、最適な答えを導くものだと思います。何も考えない状態で目をつむっていると突然アイデアが降ってくるなんていうのは嘘です。なのでインプットが少ない人は答えを導く引き出しがあまりなく、平凡で毎回似たり寄ったりのものになってしまいます。極端な話、「可愛い動物の絵を描いてください」と言われて、パンダしか知らない人はそれに似たようなものしか描けませんが、動物園でいっぱい動物を観てインプットした人はたくさんの動物を踏まえて、その場に適した可愛い動物を描くことができます。前者と後者では大きな隔たりがあると思います。
話を戻します。なので渋谷というのはそういうインプットをバランスよく取り入れることができる街だと思います。アートも観れる、映画も観れる、最新の広告がそこら中に貼ってあって、絶えずカルチャーの更新がされています。好き嫌いは別として、こういうインフラが整備されている街で学べること自体に価値があると思います。
⑵ 狭い→アットホーム
見ての通り正直桑沢は狭いです(美大とかと相対的に見ると)。 授業終わりとか廊下はごった返すし、エレベーターで行こうとしても中々来ねぇから階段で行くわ、、みたいなことがしょっちゅうあります。8階建てのビルに生徒や先生が詰め込まれているのだから仕方ないです。でもその狭さが逆に対人関係を密にしているなと感じます。生徒同士、先生同士、または生徒と先生同士、それぞれ和気藹々としていて常にポジティブな空気が流れていたなという印象です。そのアットホームさからか、他学科同士でお互いの課題を解決しあったり、就活のときに毎日先生に相談できたりといい環境でした。特に他学科のデザインに対する考え方を知れることは個人的にはいいポイントです。テーマに対しての視野が立体的になって、薄っぺらいアウトプットを避けれる。桑沢に入ってどういうデザインがしたいんだか分からねぇという人も、他の学科に対する考え方を知ることで自ずと方向性が見えてくる気がします。
「桑沢はビルだから大学みたいなキャンパスライフには程遠いな…」と思う方もいると思います。かくいう僕もその1人でした。確かに桑沢には他の大学みたいに敷地内に大きい画材屋はないし、運動するところもない、学食もないです。本当に最低限のものしかない。でも渋谷という街にはそれが全部揃っています。画材屋は東急ハンズ。運動したけりゃ代々木公園。なんか食べたければ、適当に近くに美味い店がたくさんあります。今時代的に自分でモノを持つのではなく、なんでもシェアしあうみたいな風潮がありますが、それとなんとなく感覚は近いのではないでしょうか。あんまり声を大にして言いたくないですが、「渋谷がキャンパス」だと思います。なので街ごと桑沢生活を楽しめます。
② 桑沢の生活
僕は昼間部なんで桑沢では3年過ごしました。夜に学ぶ夜間部は2年間です。僕の場合桑沢で過ごした3年は下記の図の流れです。
まず1年生でビジュアルデザイン科、プロダクトデザイン科、スペースデザイン科、ファッションデザイン科全ての学科を経験します。「全教科?私はグラフィックデザイナーになって、ラフォーレのポスターをデザインしたいの。関係ないわ」と思う方も落ち着いてください。桑沢でまず全学科を経験することはそれへの近道です。先ほども言った通り、デザインって世の中の森羅万象、全てのものに関わっているものなので、いろんなデザインの考え方を知ることが薄っぺらいデザインをしない予防策です。そういう意味ではこの1年間は苦手なことも歯を食いしばってやってみると良いです。やってみたらなんか分かるかもしれないし、何年か経って気づくこともあると思います。社会に出たら苦手なことは得意な人に頼めばいいんです笑。
2年生はそれぞれの学科に進んで専門分野を極め始め、3年生はゼミに入って、卒業制作に取り掛かります。どんどんデザインのカテゴリーが狭くなっていくというか、デザインに対する解像度がどんどん上がって行く3年間だと思います。そしてこの3年間はあっという間。もっとゆっくりデザインを学びたいという人もいるかもしれません。それも一理ありますが、逆に言うと早く社会に出てクリエイターになれるということだと思います。結局、現場で学ぶことの方が学校で学ぶことより多い。学校という誰にも何も言われない環境でゆっくりと自分の掘り下げたい分野を研究するのもいいですが、結局いつか社会に出ると決めているのなら、早いに越したことはないと思います。
そんなスピード感のある3年間なので課題は正直多い。徹夜もしました。
でもその経験があるから今いい仕事に関われている気がします。結局、量をこなさないと質に転換しないっていうのが割とあります。インプットばっかりして、良いものをみて、頭の中ではこういうことできるなって考えることはできるけど、結局アウトプットになると違う脳を使うというか、想像してたことが全然形にできないじゃん…というのが必ずあるんです。そういうことってたくさんの量をアウトプットしないと身につかないし、理解できない。かの有名な佐藤可士和というアートディレクターはこう言っています。
「実現しないアイデアはただの妄想だ」
どんなに良いことを思いついても、実現しなければただの妄想、意味ないと言っている。それだけアイデアと実現の間には大きなハードルがあります。今思うと、それぞれの課題で全部めちゃくちゃ良いものが出来ていたかと思うとそんなことはないし、完成度はまちまちだったと思います。でも量をこなしてやっているうちに、スケジュールの調整の仕方、この制限時間で完成度を上げるやり方、上手い見せ方が身についてくる。なので、課題が多かったのは結果的に良かったなと思います。
③迷ったら
桑沢に入ろうか迷ったら以下の基準をなんとなくチェックしてみてください。1つでも当てはまったら桑沢での時間は有意義なものになると思います。
そして別に学校なんて気楽に考えていいと思います。この大学に入らないと、こういうデザイナーになれないとか、あの人みたいになれないとかは考えるだけ無駄です。結局自分のやる気・モチベーション次第。やる気がない人は藝大入っても落ちぶれると思うし、やる気がある人は学校に入らなくてもデザイナーになれている人とかいます。とにかく学校に入ることはゴールではないということです。ドラえもんの1巻にあるシーンがあります。
のび太のひいひい孫であるセワシくんが、のび太の運命がどうなろうと、目的さえしっかりしてれば大丈夫ということを東京から大阪へ行く過程で説明しています。東京から大阪へ行く方法はいくらでもあって、それぞれで見える景色は全然違う。けれど大阪を目指すという目的は変わらない。したらどんな方法でもいつか到着できるんです。
なので、ぶっちゃけ桑沢に入らなくてもいい笑。どこに行かなくても自分の目指すところがちゃんと見えてれば自分の目指す場所へ着けると思います。これから何かに向かって邁進する方、それのために桑沢に入る方、応援してます。僕もやりたい事たくさんあるので頑張ります。
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