伊豆大島の自由すぎるレンタルサイクル屋
先日のGWに伊豆大島へちょっとした旅行に出かけた。伊豆大島は東京と静岡の丁度真下にある島。東京の竹芝からは定期船が出ており、休日など気軽に行くことができる。そんな気軽さが知れ渡っていたのか、はたまた単純にGWだからなのか、ジェット船のチケットを取ろうとしたら、どの便も満員だった。どうにかして大島へ渡れないものかとジタバタしていたら、熱海から出発する便に空きが見つかり、遠回りだが仕方なく熱海からの出発にした。
結果的に熱海の港の近くで、海鮮丼を食べることができて満足の旅のスタートとなった。小1時間ほどで大島に着き、早速ここでの移動手段を確保するためレンタカー屋に電話をかけた。合計4社ほどのレンタカー屋に連絡をしたが、どこも既に車は貸し出し済みの状態だった。港で立ち往生を喰らっている自分にイライラしつつも、港のおじさんへ事情を話すと、レンタルサイクルがあるという情報が手に入った。丁寧に連絡先が書かれたインクジェット印刷のチラシを与えてくれて、意気揚々とそこへ電話をかけた。4コールした後、出たのは30代〜40代と思わしき男性の声で、電話口からは外にいるかのような音が漏れていた。自転車を借りたいと申し出ると、
「お店に行っていただくと、店の外に赤い自転車と白い自転車があります。どちらかを選んでください。その後、店内へ入ると机の上に同意書があるので、そこに名前を書いていただいたら持って行っちゃって結構です。泊まるのはどこですか?あぁ、じゃあ夕方にレンタル代を取りに行きまーす」
とのことだった。今までいろんなお店のサービスを受けてきたが、この私書箱のようなシステムを受けたのは初めてだったので戸惑った。言われたシステムを脳内で反芻しながら店へ行くと、確かに真っ赤なスポーツバイクと白いミニベロのような自転車が置いてあり、中に入ると机に同意書があった。その机もよく見ると、木でできたバーカウンターのような机で、机の向こうにある棚には酒瓶が散乱していた。海賊の船に乗ったことはないが、海賊の船の船内は大凡、こんな感じだろうと推測した。同意書にサインをし、恐る恐る自転車を拝借した。2時間ほど自転車で島内を遊覧し、ホテルへチェックインをした。約束の夕方の時間帯にはもう両足を突っ込んでいるはずだが、レンタルサイクルの主人は来ない。20時を回り、流石にどうしたものかと思ったので電話をかけたが出なかった。明日は早起きをし、バスで目的地へと向かう。なので自転車は返却しとかなければならない。帰る間際に立ち寄る時間もないため、今日払っておきたいのだ。最悪払うことができない場合のことを予測していると、スマホがバイブで着信を告げた。出るとレンタルサイクル屋の主人からだった。
「今、この電話番号から電話をもらったみたいなんですけど…?」
「あ、すいません。本日自転車を借りたものなのですが、レンタル代はどうすれば…?」
「あぁ!そうでしたね。ちょっとこっちの方が忙しくて…。実はうちの家内がそちらで働いていまして。明日の朝出勤するんで渡しといてください。よろしくお願いします」
というやり取りで終わった。もう一度整理すると、今泊まっているホテルにレンタルサイクル屋の主人の奥さんが働いており、奥さんへレンタル代を払っといてくれというものだった。あまりに自由すぎて、というか体験したことのないことで思わず笑ってしまった。僕が奥さんへお金を払う保証をどこで判断したのだろうか。判断するとしたら、電話口の声しかない。いや、それか借りるときに言った僕の名前をFacebookで検索し、そこでタグ付けされている僕の写真を見て判断したかもしれない。ましてや学歴、投稿している内容、友達の数まで含めて、総合的に判断したかもしれない。レンタルサイクル屋の主人の判断基準を思案しているうちにその日は寝ていた。
結局、翌朝払おうとしたが、奥さんがまだいなかったので、受付のおじいさんへ事情を話し、お金を預けた。何も連絡がないということは無事お金は渡ったのだろう。もし家に突然見知らぬ人が来たら、その人はレンタルサイクル屋の主人だろう。そしてお金は渡っていなかったということだ。
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