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ピクサーはなぜ最初の長編アニメにオモチャを選んだのか

こんにちは。コロナ感染者は増えてきているし、九州の方では水害が起こるしで2020年はいつにも増して波乱の年だなと思っているところです。もう地球を離れ、違う惑星でゼロから文明を作った方が早いのではないかと言った感じです。

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さて今回はピクサーはなぜオモチャというテーマを最初に選んだのかについて書きたいと思います。僕にとっては頭の痛くなる話です。

なぜ「オモチャ」か

ピクサーといえば、知る人ぞ知る、アメリカのアニメーションスタジオです。コンピューターグラフィックを用いたアニメが特徴で現在までに20作品以上を世に送り出しています。『トイ・ストーリー』や『ファインディング・ニモ』が有名ですよね。僕は『インサイド・ヘッド』『モンスターズ・インク』が好きです。

その『トイ・ストーリー』はピクサーが手掛けた最初の長編アニメーションです。アンディという男の子とウッディと名付けられたカウボーイの人形、またその周りのオモチャたちの愉快な話です。20年以上前の映画なのでCGのクオリティはスマホゲームよりも劣るクオリティに見えますが、その当時は斬新な映像体験だったと思います。ではなぜピクサーは最初の長編アニメに「オモチャ」というテーマを選んだのか。それは手法であるCGアニメーションが関係しています。

CGはポリゴンという単位でオブジェクトを作り、そこに材質のマテリアルやライティングなど全てコンピューターの中で世界観を作り、画像として書き出す技術です。映像はその画像の連続です。要はコマ撮りアニメーションと同じです。つまり長編アニメーションを作ろうと思ったら何万枚以上もの画像が必要です。当時のコンピューターで画像を一枚書き出す(レンダリングと言います)のに大体45分から30時間(目安の振り幅が広すぎですよね)かかったと言われています。ピクサーは100台を所持していたのですが、それでも映画を一つ完成させるには途方もない時間が必要です。それに書き出してみて、ここの動きやっぱりこうしたいなぁ…とかあったはずです。1秒間に24コマの画像が使われているとして、トイ・ストーリーは80分なので24コマ×4,800秒=115,200コマが必要で、それを書き出すのに平均3時間かかったとしても途方もない時間がかかることが分かります。こんなことは作る前から勿論わかっていたことなので「オモチャ」というモチーフが選ばれたんです。

"最小限のコストで最大のパフォーマンスを生み出す"というデザイン

CGのレンダリングは勿論、画像の中に要素が多ければ多いほど書き出しが終わるまでに時間がかかります。例えば毛むくじゃらのモンスターと、R2D2のような単純な形のロボットでは後者の方が楽に書き出すことができます。

当時のピクサーは予算が潤沢にあるわけではないし、レンダリングのためのコンピューターも100台ほどしかありません。けども無名だったので、この映画で知名度をあげることは必須だったはずです。そこでピクサーはオモチャというモチーフに目をつけました。なぜか。オモチャは大体プラスチックのようなものでできています。そして人形に関しては服も着ているものもありますが大体は身体に張り付いていて変化をするものではありません。そして形も単純です。つまり、レンダリングに負荷がかからないのです。それにオモチャがメインなのでストーリーの大半は部屋の中で巻き起こります。部屋は長方形で置いてあるものもベッドや棚など単純な形のものばかりです。ライティングの設計も楽。これが外を舞台にした物語であれば、木や草花など、自然物のオブジェクトが多くなってしまい、モデリングもレンダリングもかなり時間がかかってしまいます。

ピクサーは現状の自分たちの手に持っている武器を確認しつつ、どういう環境であれば勝てるのかを綿密にデザインしていたのです。映画はエンタメなので「レンダリングの負荷を減らすためにオモチャというモチーフを選んだんだね!ブラボー!」とはなりません。そこにはちゃんと確かなストーリーと世界観があってこそ成立したものでした。

作り始める前に最初にゴールを描く

何事もそうなのかは分かりませんが、作品制作は最初にゴールを設定してそこから逆算して何が必要なのか、どういう環境であれば実現できるのかを考える必要があると思います。僕は去年、「まさひろ」というマンモスのキャラクターを作りました。最初にこのピクサーの事実を知っていたらこのキャラクターは作っていなかったと思います。見ての通り、毛が生えていて、マンモスなので鼻が長い。最終的にアニメーションとして動かしたかったのですがレンダリングに時間がかかる上に、鼻のせいでボーン(骨)の構造が認識しづらく、手間がかかるキャラクターになってしまいました。

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ワークステーションPCと凄腕アニメーターがいれば実現できたかもしれませんが、今の僕にそんなリソースがあるわけがなく、今中断しています。これはノリで作り始めてしまったために起こった問題で、初めからわかっていれば起こっていなかったことです。プロジェクトの全容を事細かく設計しすぎて、遊びがなくなるのもアレですが、それでも最初にゴールを思い描くことは必須です。個人の制作ならまだしも、何十人単位で動くチームでの制作となった場合は今までの作業が無駄に終わってしまう可能性もあります…。俯瞰して見る癖をつけるといいのかなと思います。僕も気をつけます。

今回は以上です!







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