島根旅行記#2〜旅行のメインは酒、ホテル選びの基準すら酒〜
#1のあらすじ
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〜ざっくりまとめ〜
6月はじめ、兄の結婚式が行われる島根へ、4泊5日の旅行に出発した家族一行。早朝、鳥取県米子空港からスタートした旅は、とんでも広さのとっとり花回廊、境港の安くて美味い回転寿司と鬼太郎の世界を堪能した。欲張って鳥取県に長居してしまった我々は、ついに島根県に足を踏み入れる。
観光3:美保神社
さて、鳥取県の境港から橋を渡って北上し、ついに島根県に上陸した我々。初めに訪れたのは「美保神社」という、事代主神(ことしろぬしのかみ)、つまりえびす様を祀る神社である。
私がここを訪れたかった理由として、「楽器が多数奉納されている」という事実に強く惹かれたというのがある。海上交通の関所として発展していたこの美保関に来た船乗りたちが、『関の明神さんは鳴り物好き』だと口々に伝え、海上安全などの祈りを楽器とともに捧げたらしく、日本最古のオルゴールやアコーディオンも奉納されているという。趣味の範囲内ではあるが、物心ついた時から音楽にずっと触れてきたわたしは、そのような事実に触れ、「いかねば!」と思ったのだ。
どこに行ってもそうなのだが、神社に足を踏み入れた時、空気が凛とする感覚が好きだ。異世界に入り込んだかのような静寂さに、その直前までごちゃごちゃと頭の中を飛び回っていた思考が急に大人しく息を潜め、凪の心で、きっと本来の自分の姿で、歩みを進めることができる。素直に、自然に足が前に出る。
そしてここ美保神社は、流れる空気が一段と静寂の輝きを放っていた。時刻は15時半、傾いてきた陽の光と、さわさわと木々を揺らす風の音が心地よい。一礼をし、あらゆる雑念をこの鳥居の外側に置いて、中へと足を運んだ。
美保神社に派手さはなかった。荘厳で大層な構えというものでもない。本殿は構えが大きく迫力があったが、心を鎮めてくれるような安心感の方がより大きかった。なんというか、強くて優しいのだ。私はこの場所が大好きになった。島根県内の神社はこの後いくつも回ったが、この最初に訪れた美保神社が一番素直な気持ちでまた来たいと思えた場所だった。
そんな風に美保神社に惹かれた理由のひとつとして、海の近く、そして港町の一角に立地しているというものがある。私は水の流れを感じる場所が好きで、特にここ美保神社近くの港は少し入り組んだ構造になっており、穏やかでゆっくりとした時の流れを感じることができる、とてもいい場所であった。
さて、ここでのんびりと過ごしたい気持ちもあるが、いい時間なので車を走らせ宿に向かう。
観光4:NIPPONIA 出雲平田 木綿街道
島根半島の東端から西へ、中海と宍道湖を超えた出雲市に、宿泊する宿がある。意外と遠く、車で1時間半弱であった。遠いのだが、ここにどうしても泊まりたい理由があった。そう、この#2の題にもある通り、「酒」である。
泊まる宿は、木綿街道と呼ばれる地域にある『NIPPONIA 出雲平田 木綿街道』というホテルだ。木綿街道の説明は後ほどするとして、ここは元々酒蔵だった建物を改装して造られたホテルである。出雲といえば日本酒の発祥と言われる地域。その出雲で元酒蔵であったホテルに泊まれる、なんと理想的な旅行なのだろう。酒を作り、酒と向き合い、酒を追求する場であった(であろう)元酒蔵の場所で、早朝からの旅の疲れを癒す酒を、夜に酌み交わす。・・・最高だ。
入り口を入るとすぐに飲食スペース、左手には調理場があり、早速夜の食事を想像して生唾を飲んだ。机や台などに、実際に使われていた酒樽や蒸したお米を運ぶ道具(名称を忘れてしまった)が使われており、こだわりが感じられる。
泊まった部屋は「道具廻」という部屋で、4人で泊まれる広々とした部屋であった。部屋の中にテレビはなく、日本の伝統的な暮らしに思いを馳せながら静かな時間を過ごして欲しいという(父親と祖母はテレビがないことに少し不満げであった)。部屋の隅には酒器を花瓶にしたものが置いてあり、綺麗にリノベーションされた室内ではあるが元酒蔵らしさを忘れない。
部屋にお風呂はついているものの、温泉好き一家は近くにある温泉施設「いずも縁結び温泉ゆらり」を利用した。歩いてすぐですよとお勧めされたのだが、一日中歩き回った足にはホテルの外歩き用の下駄が少し堪え、普通に自分の靴で行けばよかったと後悔をした。特に足の悪い祖母はかなり疲れがあったためか、歩くのが辛そうであった。しかし風情はある。多少の不便も楽しむくらいの心意気が、旅には必要不可欠だ。とはいえ、老人に鞭を打つような真似はしてはならないので、次からは気を配ろうと反省をした。
さて、温泉から帰ってきたあと、ここを選んだ最大の決め手となる食事の時間がやってきた。どれだけこの時間を楽しみにしていたか!
はぁ〜素敵。今これを書きながらもうお腹がぐうぐうと鳴っている。今これを書いている私自身が耐えられないので細かな説明は省くが、お料理はどれも優しい味付けで素材を生かしたようなもので、とてもとても美味しかった。
酒の話2:酒持田本店『ヤマサン正宗』
食事の話をするなら、酒の話をしなければならない。
ここ、NIPPONIA出雲平田は木綿街道と呼ばれる古い街並みの一角にあり、その木綿街道内には酒持田本店という造り酒屋がある。この酒持田本店のお酒を中心とした出雲のお酒が楽しめるのが、このホテルの大きな魅力の一つだ。
酒持田本店のお酒は当ホテルに全6種類置いてある中で、
・『うさぎ雲』(低アルコールの日本酒。すごく柔らかくて飲みやすいお酒)
・『佐香錦 純米吟醸』(佐香錦は島根県のブランド酒米。父親お気に入りの一本で、お土産でも購入)
・『誘一献 特別純米酒』(この定番の特別純米が私は一番好きだった)
・『古滴 佐香錦 純米吟醸 原酒』(香ばしい香りがあり美味しい!)
の4種類をいただいた。
どれも共通しているのは香ばしく奥行きを感じる独特な香り。近年は日本酒界で生酒ブームが起きており、私自身も生酒はとても好きで、あればよくよく頼んでしまうのだが、裏を返せば、品質や味を保つ火入れを行わない(あるいは通常2回行う火入れの工程の内どちらか1回しか行わない)生酒は、活きが良すぎたり不安定なものになってしまうという危うさがある。しかし、ここのお酒にその危うさは微塵もなく、しっかりと寝かせてじっくりと熟成させ酒を作りましたという自信が感じ取られるような素晴らしいお酒であった。小さい酒蔵であるため、全国で飲めるようなお酒ではない。旅行先で出会えてよかったと、改めて旅のご縁に感謝する夜となった。
前述した通り、『佐香錦 純米吟醸』はお土産として自宅用に購入したので、帰宅後もう一度いただいた。サラッとした飲み口と、甘くてフルーティな、少し独特な香ばしい香りが癖になる一本である。この写真に写っている、らっきょうを塩味でオイル漬けしたものと相性が抜群であり、それはもう健康的な晩酌が楽しめた。えぇ、とても健康的ですとも。
酒の話3:板倉酒造『天穏』
当ホテルで味わったのは、酒持田本店の日本酒だけではない。今回もう一つだけ、『天穏』という日本酒も記録しておきたい。
・『天穏 生酛純米 改良雄町』
この日本酒は、飾らない。日本酒の”旨味”とは何か?という本質にまっすぐ焦点をおいた、綺麗で、優しいけど深い、深くてコクがあるが軽やか・・・そんなお酒だ。とっても美味しかった。一口飲んで一目惚れ、いや一口惚れをした私は、なんとかこの板倉酒造訪問を無理矢理にでも旅程に組み込みたくなったのだが、唯一行けそうな日が酒造の定休日と被ってしまい、この恋は儚く散ったのである。天穏、私は島根県のお酒といえば、まずこれを頭に思い描くようになった。
日にちは飛ぶが、旅行最終日、立ち寄った物産館で天穏のお酒を見かけ、即購入をした。
・『天穏 純米大吟醸 佐香錦』
これもやはり綺麗だ。少しの甘さと、あまり余韻を残さないサラッとした切れ味。どの食事にも優しく、しかししっかりと寄り添う、素晴らしいお酒である。普段、日本酒をあまり飲みつけないような人にもぜひお勧めしたい一本だ。
観光5:木綿街道
翌日。酒をたらふく飲んだ我々の朝は決して遅くはない。7時に目を覚まし、着替えて顔を洗ったあと、朝ご飯までの時間に散歩に出た。
ここ木綿街道は、江戸時代に木綿業を中心とした商人文化が栄えた街である。老舗の酒屋(前述した酒持田本店)、醤油屋、生姜糖のお店などが現在も立ち並び、古くからの建築物を視覚で、お店から漂う香りを嗅覚で、そしてそれを一口くちに運べば味覚で楽しめる、非常に五感が刺激されるエリアだ。おしゃれなレストランや雑貨屋さんもあった。木綿街道自体はくの字になっていてさほど広くはなく、コンパクトにまとまっているので観光もしやすい。朝の散歩にうってつけである。
歩いている途中からお店が開店し始めた。8時からやっているとはさすがである。
祖母が大量に生姜糖を買っていた。ご近所さんへのお土産にするらしい。この生姜糖、私も一つ買ったのだが、生姜好きとしてはたまらない辛みと砂糖の甘さが楽しめる逸品であった。行く先々のお店にもよく置いてあったので、島根県のお土産として定番の商品であるようだ。
また、前述の酒持田本店にも、朝8時半に訪問することができた。感じの良いお店の方に、NIPPONIAに宿泊していて昨晩はここのお酒を堪能しましたと告げると、あそこには花を活けに行っているのよとのご返答が。店内には木綿街道のお店が一同にして作ったという手ぬぐいも飾ってあり、地域で助け合い、一丸となって盛り上げようとしている木綿街道はとても素敵な場所だなと朝から感動してしまった。
さて、NIPPONIAに戻って朝ごはんである。ここは朝ごはんも凄かった。麹や甘酒、味噌などをふんだんに使った発酵食が数多く並び、全部食べ切るにはご飯何杯必要なんだと軽く絶望するほどである。とても美味しくて、幸せな食卓であった。
最後に、ここまで細かい食事の情報を記すことができたのは、NIPPONIAの丁寧なお品書きによるものであり、このようなもてなしはアレルギー体質の私にも、記憶力がない私にも大変有難いものであった。
わずか一泊であったが、とても気持ちがよくいい体験ができた。ありがとうございました。
#2結論、美味しい食事と酒こそが国内旅行の醍醐味
・・・もうこれ以上に言葉にすることはなかろう。
島根の美味しい料理と酒を堪能した1日目。
2日目、一行が向かう場所は、島根県内にある世界遺産といえばの──?
そしてまさかの家族内で別行動開始!?
#3近日公開、お楽しみに。