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新喜劇が見れるんです。

久々に、音楽話から離れて日常野ことを。
随分前のことだが、あまりに強烈な印象でメモしていた話を書き残してみようと思う。
北大阪急行内にて、大阪に住んできた中で、これはほんものの新喜劇(土曜お昼のあれ)!と思う光景を目撃した一件。

 ある夜、北大阪急行で帰宅中に座って知人と話し込んでいたところ、どこかの駅から乗ってきた三人組が向かいの席へ座って話し始めた。酒井藍ちゃんが頼もしいお局さん役になった感じの40~50代女性、池乃めだかさんが普通の髪型になったら、という印象の男性、60代半ば頃。ユニークなツーブロックスタイルでかろうじて結べる長さの髪を後で結んでいる50代男性。一見チグハグなトリオだが、気心知れている雰囲気で職場関係の間柄と思われる。
 しばらくすると、何やら藍ちゃんと真ん中のめだかさんが揉み合っている。「○○さんちょっと、これはないわ、これはあかん」
「ちょっとやめて」
ツーブロックさんは酔っぱらっているようで笑っているが目が開いていない。
藍ちゃんによると「耳にめっちゃ長い毛が生えてる」らしい。しつこく耳を覗いている。身をよじって逃げるめだかさん。
向かいの席の私たち、のみならず隣席の方々もくすっと笑ってから数分後、揉み合いが大きくなっていって、見ると藍ちゃんが手に水色の可愛らしいマイピンセットを持ってめだかさんの耳の毛を抜こうと奮闘している。嘘でしょ、という光景。
「いやほんま、これはあかんて○○さん」「やめてっ」と言いつつ藍ちゃんが毛を摘まんで引っ張っるのか、めだかさんは「イテッ」と身をよじらせる。このリアクションは、え、本物の池乃めだかさん?!と思わせる完成度。
ツーブロックさんは止めるでもなく相変わらず目を閉じたまま笑っていて絶妙な笑いスパイスを添えている。このやり取りをしつこいくらい繰り返し、藍ちゃんは諦めない。
「○○さんと私らの間柄やったらええけど、なんぼなんでもこんなん生やしてたらあかんわ」という説得。人前に出る身だしなみを整えろということなんだろうけど、電車に居合わせた人々の前で耳毛をさらされるめだかさん。それはないわ、という長さとは。
「何を見せられてるねん?」と初めは驚いて目を見張ってた私だが、このやりとりの反復に笑い声も漏れ涙が出るほど笑けてきてしまった。隣席の女性も「こんなの初めて!」と手で顔を覆う始末。
次第に車内に人が増えて来て、流石に三人のやりとりもトーンダウンし、先に降りて行かれたので、めだかさんの毛の顛末はわからないままだったが、数日後を引く衝撃であった。
 御三方の「キャラだち」と役割が、よしもと新喜劇要素をバッチリ兼ね備えていて、めだかさんの「イテッ」反復はドリルせんのかい系のギャグに匹敵していた。
大阪に住みだして、上の階に住む老夫婦が呑み帰りに始めるお決まりの喧嘩で、本物の「あほんだら」を聴いた日から十数年。こんなに完璧な日常のよしもと新喜劇に遭遇したのは初めてだった。
まぁしかし、あの藍ちゃん姉さんは、きっとこの面白さを心得ておられたと思う。

正直、大阪の行く末(えらく大袈裟な表現だけど)だとか、おかみのすることとか、思うことは色々あるのだけれども、町で出会うこの土地の人ならではのユーモア?あふれる場面に遭遇するときは、ここに住むことを、おもろいなぁとほっこりするのだった。

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