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第2章_#02_胸いっぱい腹いっぱいの国際線

さて、1994年12月某日。旅慣れたキャリアウーマンB子さんと共に、機上の人となる。12時間後にはパリだなんて、まだ信じられない。

九州出身なので飛行機には数え切れないほど乗ってきたが、12時間もの長時間のフライトはもちろん初めて。1日の半分だ。一体どうやって過ごすのかイメージできない。とりあえずコートを脱いで頭上の物入れに仕舞い、飛行中に使う身の回りのものや本などを座席ポケットに入れるが、ポケットは小さいのですぐにパンパンになった。なるほど、噂には聞いていたがエコノミークラスのシートは想像以上に狭い。(※この時乗ったのは日系航空機で、その後、旅を重ねるうちに、日系はそれでもまだ広いと知ることになるが...。)貴重品が入った手荷物は座席の下に。スリッパに履き替えるために脱いだ靴も座席の下。もうこの時点で脚も伸ばせず、ほぼ身動きが出来ない状態だ。これで12時間なんて、大丈夫なのだろうか?

さて、離陸してひと段落すると食事が供される。えっ、全然お腹が空いてないこのタイミングで?とややビックリ。小さなトレイに、カトラリー、パン、ミネラルウォーター、前菜、メイン、デザートなどなどが隙間なく並べられている。「お飲み物は何になさいますか?」と訊かれ、赤ワインをチョイス。180mlくらいのミニボトルとプラスチックのコップを渡されるが、あれ、どこに置くんだ?仕方ないから平べったい容器に入ったミネラルウォーターを膝の上に移動。ワインをコップに注ぎ、「これからの旅に!」とB子さんと乾杯をした瞬間、ようやく緊張が解けた。が、ちょっとでも肘を張るとB子さんにぶつかりそうなので、「気をつけ」の肘から先だけ前に曲げたような姿勢。そんな窮屈な思いをしながらの食事は集中を欠き味気ない。こういうのも数こなせばそのうち慣れるんだろうか...。

フランスと私-02_02-A+


食べ終わるとCAさんが手際よく撤収。トイレに向かう。おお、すでに行列。食べたら排泄。生き物なんだなぁ…(こういうことで実感するなよ)。
トイレから戻ると、消灯されてて薄暗い。なんと一方的に就寝時間である。ちょっと待て、いま何時だ?離陸したのが午前中の11時くらいで3時間も経ってないから、まだ真昼である。寝られるわけがない。
映画を見始めるが、機内が乾燥しているのとモニターが明る過ぎるのとで目がパリパリしてきた。映画を止めて本を読み始めるが、暗がりの中の読書灯の明るさも目が疲れてくる。ああ、何も集中できない。時間が潰せない。「寝ておいた方がいいわよ」そう言うとB子さんはアイマスクをして睡眠体制に入る。しょうがない。私も目をつぶる。

ちょっと眠ってはすぐ起きるを幾度となく繰り返す。さっき食べた機内食がうまく消化しきれず気持ちが悪い。普段は食が細いわけでもないのに何故かしら。海外旅行って予想以上にシンドイわ…。
そして、そこで、我が目を疑う事件に遭遇する。あろうことか、CAさんがお夜食を持って通路を回っているのだ。見ると、おにぎりとビールである。オイオイ、誰が食うんだ?と目を丸くしていたら、いつの間にか起きている隣のB子さん「あら、頂こうかしら」と手を伸ばす。えええ?食べるの?驚いてB子さんの顔をチラリ。すると、私も食べたがっていると勘違いしたのか、「こちらにも」。笑顔のCAさんからおにぎりと缶ビールを手渡された私は金縛り状態。ビール+おにぎり=W糖質、地上でもやらない。2度目の乾杯をしながら、着陸前に早くも機内で体調を崩すかもしれないという不安が胸をよぎる。えーい、もう!半ばヤケクソに、ビールでおにぎりを流し込む。B子さんが再び眠りについたのを確かめたら、トイレに駆け込んでぜんぶ吐いた。そして胃薬を飲む。パリでフランス料理に胃が疲れた時のために持参したものだが、まさか機内で飲むことになろうとは。ともあれ、薬を飲み、歯を磨いたらようやく落ち着いたのか、いつの間にか眠りに落ちていた。

何時間経っただろう。気持ちよく眠っているところにバチバチバチとそこら中の灯りがつく。時計を見ると、お、あと2時間くらいで到着じゃないか。そこにまた食事。今度は朝食らしい。体内時計は睡眠中に機能停止して、もう何時か分からなくなっている。でも、数時間前に服用した胃薬のおかげか、あるいはこのペースに慣れてきたのか、意外に食べられる。完食だ。再びトイレで行列。ようやく席に戻ったかと思ったらすぐに着陸態勢。なんか最初の10時間はめっちゃダラダラだったのに、最後の2時間がとてつもなくバタバタするのね。これも国際線あるあるなのかしら。

ともかく、ようやく着いたー!シャルル・ド・ゴール空港だー!!嗅いだことのない匂いの空気。これがフランスの匂いか。ちょっと微妙な匂いだが。

スーツケースを受け取って、これからパリ市内に入る。タクシー乗り場へ行くのかと思いきや、B子さん、電車乗り場へ向かおうとしている。
「タクシーじゃないんですね。」
「お金が勿体ないからいつも電車よ。」
なるほど旅慣れているなぁと感心しながらも、疲れた身体と重たいスーツケースを引きずりながら「2人なんだからタクシーでもいいじゃん」と心の中では早くも弱音を吐いていた私なのであった。

さあ、いよいよパリに入る!À bientôt!

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