もしもこんなお店に入ってしまったら~リンパマッサージ「あじあ」(前編)
あれは今から15年くらい前のこと。
ホットペッパーで、リンパマッサージをリーズナブル価格で受けられる店を見つけた。
電話予約をして、電動アシスト自転車で約30分。
それは、西荻窪駅近くにある「あじあ」という店だった。
階段を上り、玄関に入ると、待合室らしき部屋のド真ん中に、洗濯をして取り込んだばかりの山積みタオルが目に入って来た。
部屋を見渡すと、ところ構わず無造作に置かれた洋服や食器がある。
どうやら自宅兼用のマッサージ店のようだ。
インタフォンを鳴らして中に入ったものの、「イラッシャイマセ」 という外国人の女性の声がするのみ。
店の人は一向に出てくる気配がなかった。
すると、施術が終わったお客さんと、先ほどの外国人らしき女性の会話が聞こえてきた。
「マタキテネ。ハヤクゲンキニナッテ。ワタシ、タカラクジガアタッタラ、アナタニアゲルカラ」
などなど、親しそうで、実際、絶対にアリエナイ妙な会話が聞こえた。
お客は常連で悩み事を相談していたのだろう。しかも、少し泣いているようだった。
でも、予約時間は、とうに過ぎている。それなのに、こういう調子で二人の会話は止まりそうにない。
それに、なんか怪しい。リラクゼーションマッサージを謳う店にしては雑然として汚すぎる。
そうだ。今のうちに消えてしまおう!
と、思ったのも束の間。急に外国人女性が施術室から出てきた。
「アナタ、ソコスワル。チョットマッテテ」
顔を合わしてしまった。逃げそびれてしまったではないか!
案内された椅子も、山積みの洗濯物が置いてあったところだ。パシールを座らせる為に慌てて取り込んだものを他の場所へ移したのだ。
それから2分間のパシールの脳内は何と忙しかったことか。
シマッタ!失敗だ!こんな店はヤバい。スグに出た方が良い。
逃げだそうとしたその瞬間、施術室から「モウチョットマッテクダサイ」と、再び声が掛かった。
そして、そうこうするうちに、前の客は帰って行った。
常連客との会話から察すれば、身に危険が及ぶような店ではなさそうだ。
断りきれないまま案内された施術部屋に通され、マッサージ用の服に着替えた。
(後編に続く)
🐶中目黒土産店さんのイラストを使わせていただきました💜