【2025年新作童話】ステーション#4〈ウンデットヒーラー〉(完)
#4〈ウンデットヒーラー〉(完)
わたしは愛せるだろうか?
鏡に映ったタナトスを
この醜い、自分自身をーー
「わたしが、タナトスなの?」
涙が溢れ
やっと声を出した。
女神はタロットから目を外して
わたしを見つめる。
「ええ、
貴方はタナトスという
衝動に呑み込まれた愚かな人間。
教室という小さな箱に
閉じ込められて貴方は◯んだ。
だから
銃で撃たれても◯ななかった」
「わたしが、◯んでいた?」
「あの駅、ステーションは
自らの選択で亡くなった者達が
マター(肉体)を待ち集う場所。
東の地平線から
上昇する乗り物は肉体、マター」
一枚のカードになった宇宙海賊のタロットに
また目をやる。
「いつも、私達は
いつでも守っているのに。
カイロンもそうだった。
自ら命を捨ててしまうのが
私達は一番哀しい。
ルシオル、あの伝説の傷薬、
ルシオルが見つかれば
人々は誰でもウンデットヒーラーに
なれるのに」
「ウンデットヒーラー?」
「ええ、◯んでしまいたい程の
心の傷を自身で治すことの出来る人、
それがウンデットヒーラー」
その時、わたしの手の中が光る。
「サガシニイコウ!」
「わたしが捜しに行けば、
それは見つかるの?」
「ミツカル!!」
手の中が輝き、女神は頷く。
わたしにそんな事が出来るのかしら…
戸惑っているわたしに
女神はタロットの18番〈月〉を渡す。
そしてわたしは
その中へと吸い込まれて行くのだったーー。
霧と犬と狼とザリガニが
怪訝な顔をした月を見上げている。
何だか、心がモヤモヤする。
ハッキリしなくて不安で、
この先どうなるのか自信が無くて
心が不安定になっている。
「ダイジョウブ!」
手の中は光る。
霧の中で、わたしはルシオルを捜す。
すると足にヒヤッとした感触を感じた。
川なのか、冷たい水が
足を浸している。
わたしはその川の水を手を合わせて掬った。
その水には、何万もの星が映っている!
トランジット、セカンダリープログレッション、
ソーラーアークディレクション、
リターン、ルネーション、
メトン、サロス、ドラゴニック、
イレクショナル、ボイド、
プリネイタルイクリプス、
アウトオブバウンズ、ムーンフェイズ、
オリエンタル、バーテックス、ボケーション、
リリス、エリーズポイント、
ミッドポイント、アンティシア、パラレル…
そしてその星たちは全て、
全く違う顔をしたわたし自身だったー。
それは様々な方式で映した
わたしの姿だった。
泣いてるわたし、怒ったわたし、
ダメなわたし。
全てがわたしで、わたしはわたしを
傷付けていた。
そして、最期のわたし。
タナトスに呑み込まれて
◯んだわたし。
とてつもなく自分が可哀想で
哀しくて愛おしくなった。
わたしはタナトスを抱き締めた。
可哀想だったね、
どこにも味方がいなくて
教室の中で独りぼっちで無視されて
何もしてない事をなすり付けられて
悪者にされて。
辛かったね、
だってわたしでさえも
わたしの味方じゃなかったんだもの。
わたしがあなたを
◯なせてしまったんだもの。
ごめんね、
遅過ぎたけど、本当にごめんね…
川に映った何万もの自分自身を
一人ずつ抱き締めて行った。
一人ずつに言葉を掛けながら。
最後の一人を抱き締めた時、
川が輝き出した!
ホタルだ!いや、違う、
音楽だ!
音楽が天から降ってくる!!
わたしの名を呼ぶ音楽。
手の中が光る。
「ワタシダヨ」ーーー。
わたしが銃で撃たれても
◯ななかったのは、
◯んでいたからじゃない。
ルシオルが、音楽が
わたしを守っていてくれたからなんだ。
わたしはルシオルを大切に、
大切に抱き締めて目を瞑った。
白道の世界に
目を開けると戻っていた。
女神は沢山のルシオル達に
感嘆した。
「わたしができるのはここまで。
わたしはわたしの大切さが
やっと分かったのに、
もう乗り物を失ってしまった。
残念だわ。
蘇ることができないなんて。」
女神は微笑んだ。
「貴方を生き返るようにする事は
私達にはできない。
でも、時間を戻すことはできる。
トランジットでーー」
時計が、時空が
宇宙が逆回転していくーー。
わたしの体は浮いた。
あの朝だ!
接触した列車は
わたしの体から離れ
線路に落ちたわたしの体が
弧を描いてホームへと戻っていく。
黄色い線の内側へ戻った時、
時は進み出した。
赤ん坊のように泣くわたしを
押し除けて、
人々は列車へと乗り込み
乗り物は出発する。
「そこから早く逃げて!!
自分を大切にするのよ!!!」
わたしは叫んだ。
わたしたちは教室や
会社という小さな小さな
箱の中に閉じ込められて
時に絶望し選択を誤る。
だけど世界は
箱の中だけじゃない。
終わりにするには早過ぎると
気付くのはきっと
箱から大きなステージに立った時。
世界にはそんなあなたを
好きになってくれる人達が待っている。
だからどうか、
乗り物を大切にー。
人も星も、
逆行しながら進んで行く。
わたしはヘッドホンを
耳に嵌めた。
ウンデットヒーラーになりたい。
逆行したって良いんだ。
だってわたしたちは今、
ひとつの大きな星座を
創っている最中なのだからーー。
ステーション(完)
END
最終回までご覧頂き
ありがとうございました😊
来週水曜日は、
ステーションの「制作裏話」
をお送りします❗️
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六花💌