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【2025年新作童話】ステーション#3〈タナトス〉

#3〈タナトス〉

「あなたは誰?」
「わたしは、タナトス」

鏡に映った自分の姿
そう、これは全て心象投影
だからわたしは、
わたしが嫌いなんだ

タナトスの正体を、
もう知ってしまったからーー

それは
宇宙の中の惑星の軌道だった。
軌道は粗野な螺旋階段で
惑星たちは昇り降りを繰り返す。
そこには
駅の崩壊から助かった者だけが
吊り下がっていた。

わたしと、12人もいた宇宙海賊のうち
その中からたったの2人だけに
なった海賊と、わたしの3人は
何と声を掛けたものかと複雑だったが
再会を喜び合った。

「また乗り物を用意出来なかった!!
俺には時間が無いんだ!!」

生き残ったリーダーは黒い顔から
涙を流して
星のタトゥーまみれの手で
それを拭った。
悔しそうに悔しそうに
話始めるのだったー。

「俺には、その昔愛する人がいた。
メアリーだ。
だがな、誤って毒を飲んで
亡くなってしまった。
俺はすぐに後を追ったんだが
メアリーは一命を取り留めていた。
メアリーが生きているうちに
蘇るんだ!だから俺には時間が無いんだ!」
「乗り物って、そういう事だったのね。」

その時、
左耳に奇妙な囁きが聞こえた。

“捨てなさい、捨てなさい、
大切なものを…”

途端に螺旋階段がグラつく。
目を見ると、皆
今の囁きに動揺した表情をしている。

「捨てなければいけないの?」
わたしが反応しても
左耳には何も聞こえない。
「一体何を捨てればいいのよ…」
「俺にはもう捨てるものなんて…
何だ!この看板!!」

そこには駅の識別系案内標識が
立て掛けてあった。

「順行←留→逆行」
「自己否定←留→自己肯定」
「天国←留→地獄」

わたし達はウワァとなった。
「地獄?!落ちたらってことかよ!」
「ねえ、わたし、囁いたあなたに
聞いてるの!
一体何を捨てたらいいの?」

その時、海賊の中で
一番優しそうに見えていた
隣にいた子分が言った。

「僕が、良いです。
だから2人とも、後は任せましたよ。
お元気で。」

子分が螺旋階段から落ちた。
黒い肌の星が直ぐ様動いて
そのイカつい腕で子分の脚を掴み
助けようとしたが
バランスを崩して彼も落下した。
わたしも激しく揺れてしまったせいで
振り落ちてしまった。

どれくらい、
眠っていたんだろうーー。

もう百年も千年も経つまで
ずっと眠っていたような気がする。

眠りから醒めて
「わたし、◯んだの?」
月の通り道、白道。
そこは月が絶えず移動している。

どこからか、泣き声がする。
赤ん坊の声だ。
そして、白い世界の霧の中から
女神が現れた。

「いいえ、あれは
貴方のインナーチャイルド」
「ここはどこ?」
「いいえ、ここは貴方の心象投影」

先に目を覚ましていた海賊の
黒い肌の星が光っていた。

「あなたは誰?」

「私達は貴方のグレートマザー、
ハイヤーセルフ、
もしくは女神」

女神は泣いている赤ん坊をあやす。
「これは、貴方のインナーチャイルド。
貴方は貴方のルミナリー(太陽と月)が
残っていた。だから助かったの。
ルミナリーとは
ソウル(月)とスピリット(太陽)
だけどマターが足りない。
貴方は貴方のインナーチャイルドを
愛せる?」

「インナーチャイルド?
わたしの?」

「ええ、誰でもみんな。
そう、私のも。
私も自分を愛せない。」

「あなたも自分を愛せないの?」

「ええ、
だからそんな自分は
誰にも愛される訳がない。
だからきっと
占いがあるんでしょうね、
世界には弱い人が溢れているから」

その不安のせいで人間は
占いを創り、占いを必要とする。

「占いが、あなたを救ったの?」
「救う時もある。
だけどどんな声も届かない時がある。
自分が愛する人からの声でさえ」
「揺らいでいるのね、
何もあなたを救えないんだわ。
占いでさえ。」
「そうね、そういう日もある。
だから依存してしまうのかもしれない」

突然、何かが爆発した。
宇宙海賊が破裂してしまった。
彼には本当に時間が残されていなかったのだ。

「可哀想に、
マターが間に合わなかった。」
女神は一枚の
タロットカードになってしまった
宇宙海賊を拾い上げた。

タロットを見た女神の顔が曇る。

「貴方が…!
貴方だったのね!!」
女神は続けた。

「貴方がタナトスだったんだわ。
貴方が!
貴方がタナトスよ!!」

タナトス?
わたしがタナトスなの?
だから宇宙海賊はわたしを
ワルモンだって言っていたのね。
わたしは化け物なの?
一体、何人の人達をわたしは
◯してしまったんだと言うの?

そして
わたしはどんな悪いことをして
ここへ来たの?

わたしの正体が
タナトスだなんてー。

もう世界中の何もかも
消えてしまえば
わたしが飲み込んでしまえば
いいのに、何もかもーー。


#3〈タナトス〉END

最終回まで読んでくれたら
絶対あなたを後悔させない❗️
来週もお楽しみに❗️

コメント喜びます🥲📝
六花💌

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