本田透になりたかった私が、球磨川禊になろうとする話。
こんにちは、りおてです。
画像は、敬愛するレオ様作、《荒野の聖ヒエロニムス》です。バチカンで撮影しました。本記事とは一切関係ありません。
本記事は、先日以下のつぶやきで触れたことについて書き起こしたものです。
現実とフィクションの境界が認識できていない類の言説、並びに、しみったれた恋愛の話が主となりますので、読まれる際はご注意ください。
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今でも毎日思い出す。
あの女を迎えに行く君を送り出したあの日のバス停、直前にしたキスの感触、君の服の匂い、いつか帰ってくるあの女のためにずっとクローゼットにしまわれていた姿見の鏡面、あの女のために買ったぬいぐるみ、あの女の好きな本、私が畳んだ洗濯物をあの女の畳み方に直す君、君が使っていた歯磨き粉の味、あの女の私物入れに入っていた私の誕生日の日付のチケット、君とあの女のLINEの履歴、あの女に送った睦言ーー私が設置を手伝ったベッドで、君は今頃あの女と寝ているのだろうか。
全部全部、夢ならいいのに。
あの女に捨てられて絶望する君と恋人に金を盗まれて失望する私とで意気投合したあの夜も、朝まで語り明かした喫茶店も、一緒に金沢巡りをして揺られた満員のバスも、君がペンギンが好きと言っていた水族館も、初めて行った動物園も、展覧会で買った絵葉書も、奈良で戯れた鹿も、愛でた桜も、散歩道で買ったパンも、2人で行ったところの思い出を貼り付けたスクラップブックも、君の体温も、触れた肌もーー何もかも、目が覚めたら少しの名残惜しさと一緒に消えてしまう夢ならよかったのに。
私には言わない愛の言葉、あの女から送られてくる裸の写真、それを褒める君、君にだけ見えていたあの女の幻覚、私の誕生日に重なる日程の浮気旅行、別れ際に一粒だけ流れた君の涙、私と行った場所をあの女に勧める君、私としなかったことを私と行った場所であの女とする君ーー嘘ならよかったと思うことばかり現実で。
それでも、それでも私は君が好きだよ。
隣にいることができないなら、隣にいる特別にはなれないなら、せめて別の形で、君の特別でありたい。
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昔から、本田透になりたかった。
作家じゃなくて、『フルーツバスケット』の主人公の方。
普段から敬語を話す女の子で、趣味は家事。父親を幼い頃に、母親を中学の時に亡くし、ビルの清掃アルバイトをしながら、ひとりテントで暮らしていた。ひょんなきっかけから草摩という家に住むことになるが、草摩家には代々十二支の怪物憑きがおり、彼らがそれぞれに重いものを背負って生きていることを知る。
本田透は、持ち前のひたむきさで、己の不幸を顧みず、怪物憑きたちに愛を注いでゆく。そして彼らもまた、本田透を『帰る場所』として愛してゆく。
幸せな生い立ちとは言えないのに、いつも笑顔で、健気で、無私で、いつだって誰かのために何かをする彼女に、私はなりたかった。
本田透というキャラクターを知った時、「ああ、私の生きたい生き方はこれだ」とすら思った。
不幸に溺れず、小さな幸せを拾い上げ、近くの誰かに分け与える。自分の傷はどうでもよくて、周りが傷つかないかを最優先に考える。悲しい過去を待つ人間にしてはあまりに痛々しく、さながら聖者のごときその生き方に、周りの人は感化され、影響され、愛を知る。
傲慢と言われようが何だろうが、私はそんな生き方が素敵だと思った。自尊心が低いとか、そんなんじゃ搾取されるとか言われようが、私はそんな生き方が理想だと思った。私には、そんな生き方しか残ってないと思った。
自分の寂しさを飲み込んで、由希の絶望も、夾の孤独も癒して。みんなの、みんなの帰る場所になってあげられる。みんなを慈しんであげられる、そんな女の子に。どんな悲しみも、その人に出会いさえすれば全てどうにかなると思わせてくれるような、そんな人間に、私はなりたかった。
本田透のように隣人を愛し、そして本田透のように隣人から愛されたかった。
本田透のように振る舞えば、きっと周りも私を愛してくれると信じた。
フィクションと現実の区別なんてクソ食らえだ。私は本田透になりたかった。
だから私は。
だから私は、いつだって隣人にそうしてきたように、彼を愛した。
そして彼は、私を、愛さなかった。
私は本田透じゃない。私は本田透にはなれない。私は本田透じゃないから、不幸をうまく飲み込めないし、健気にひたむきに生きられない。自分を殺して誰かを優先すれば、いつかは歪みが生じて苦しくなる。誰かのために自分を捨てて、ひたすらに誰かを愛しても、私に愛が返ってくるとは限らない。私は本田透じゃないし、ここは物語の中じゃない。
私が本田透みたいになっても、彼は、私を愛さない。
だから。
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球磨川禊になろうと思った。
私の人生の聖書である西尾維新作品の中で、唯一の長期連載漫画『めだかボックス』の登場人物。
球磨川禊。最低の代名詞。不幸の代名詞。絶望の代名詞。混沌よりも這い寄る過負荷(マイナス)。
最高の代名詞であるめだかちゃんを、いつだって最低の側から貶めてきた男。最強の代名詞であるめだかちゃんを、いつだって最弱の立場から蹴り落としてきた男。この世のあらゆる不幸を煮詰めた中にあって尚、不敵で無敵な笑顔を絶やさなかった男。
主人公である黒神めだかの最悪の敵であり、最低の友となった男。
正反対なのに誰よりも似ていて、1番信頼できないということを誰よりも信じられる人間。
いつだってめだかちゃんの隣にいるのは善吉だけど、隣にいなくたって特別なのが球磨川禊。
月へ向かうと決めためだかちゃんが、最後の最後に言葉を交わした相手。
彼の本田透になれないのなら、私は彼の球磨川禊になろうと思った。
彼の1番の理解者で、彼の最低の友であり、似た者の同士に。
彼の隣にいなくてもいいから、彼の特別でありたい。彼と最後に言葉を交わすのは私であって欲しい。関係性に名前なんてつけなくていい。恋人にはなれないけど、特別にはなれると信じたい。
だから。
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今日も祈ろう、失望を抱えて。
今日も眠ろう、絶望を抱えて。
これは、本田透になりたかった私が、球磨川禊になろうとするお話。
願わくは彼もまた、私の特別であってくれますように。