
花占い
公園の片隅に咲いている菊に似た紫色の花、ミヤコワスレを手に取って彼女は占いしようと微笑んだ。少女みたいな女性だった。小さな手だった。側から見れば幼稚じみた行動も彼女は恥ずかしがるわけでもなく、自身の世界の中に躊躇なく入ることができた。「たけるは私のことが……」そう言って花びら一枚を指に摘むと「すき」、「きらい」と慎重な面持ちで言う。こんな彼女を可愛いと思う。天真爛漫とはこうゆうことを言うのだろう。そしてまた、天然でもあった。冷蔵庫には何かの食い違いでラップが冷蔵されてあったり、鍵を無くしたと気づいてからすぐ連絡をよこすが大抵はバッグの中、ズボンのポケットや胸ポケットに入っていることに気づかないのだ。しまいにはスリッパのまま職場に行くこともあった。そして、こうして公園の花々を見てたりすると私は綺麗な花を積んで彼女の頭に挿したりする。彼女は嬉しそうに微笑んで、そのことをすっかり忘れて風呂に入るまで気づかないこともあった。そのぐらい天然を越した天然であった。
「なんか、懐かしいなー」
私は過去の彼女を思い出しながら呟いた。
「どうしたの、たける気持ち悪いよ」
そう言いながら彼女は振り向いた。柔らかな日差しがシャワーのように彼女の顔に降り注いでいた。
「何が気持ち悪いだよ。違うんだよ。こうやって君といることに不思議に思って、また幸せな気持ちになってるんだよ」
眩しかったのか瞬きしながら彼女は
「ほら、気持ち悪いじゃん」
そう言って細い目をして、あどけなく笑った。
「もう、たけるが話しかけるから好きか嫌いかどっちだったか忘れたじゃん」
都忘れは半分ほどの花びらが無くなっていた。風によって空中に流れていく花びらはたんぽぽのようだ。その花びらを驚きの目で見上げる小さな子どもがいた。母親の裾を引っ張り花びらを指差して笑った。幸せはこんなに近くで連鎖していくことに私は驚いた。春をもっと好きになったような気がしたのだ。彼女が着ているパステルカラーのワンピースから淡い、甘い匂いがしてきそうだった。
「す、き、き、ら、い、す、き……」
彼女がリズム良く花びらを落としていく。もう、夏はすぐそこでいじらしく待っていた。
「き、ら、い……」最後の一枚となって彼女は振り返って私を見た。「……す、?」
不思議そうに彼女は私を覗いた。「す?」私も問い返した。
彼女は天然だった。好き、嫌いを途中から一文字ずつで花びらをちぎっていたのだ。
呆れるよりも笑ってしまった。彼女がもう一度、「す?」と問い返してきたので、私は「き」と答えてあげた。
にっこりと彼女が微笑んだ。全てが馬鹿らしく思えた。