4月21日

 貯水庫の裏の人通りの少ない歩道の上に、若い男女が座っていた。ガードレールに一台の自転車を立てかけて、雨の降る夜中に二人は話しているようだった。傘をさしていなかった。むろん男女の髪の毛や服も濡れていた。街灯は等間隔に道を照らしていたが、男女はその明かりを避けるように暗い場所に姿をくらましていた。
 私は帰路の途中だった。最寄り駅を降りた突如に雨が降ってきたために、半ば気持ちが急いて、視野は狭くなっていた。それでも注意してペダルを踏み進めていた先に、雨にも平然とした態度をとる若い男女が、暗がりのなかで確認できた。一瞬のことだった。話していると書いたが、別に話し声などは雨音のために聞こえなかった。だが、二人の間に何やら秘密めいた男女間での友情か恋愛かを感じとったのだった。二人は降り出した雨に嘆いたり失望することもなかった。そんな仕草を認めなかった。
 私が一瞬のうちで確認できたのは、女の濡れた髪の毛を摘んでみて暗い空を仰ぎみた男の姿だった。女は背を向けていた。
 私の自転車の光が微かに二人に当たったが、女の影が肥大して男を包んだために、二人の顔を見ることなく過ぎていった。私はそうした二人を懐かしく思うのだった。

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