4月28日

 電車内に一匹の蛾が入り込んだ。クリーム色で少し大きいように思えた。
 一号車、いつから入り込んだのかわからないが、私が乗り合わせた時には既に羽をばたばた動かしながら、四方八方行方も知らずに飛んでいた。
 座席に座る少年と母親が、飛んでいる蛾に対して注意をひいていた。中継しているように、少年は蛾の飛んでいくところを細かく母親に知らせている。母親は母親で無言の車内にまるで二人だけのように少年の言葉に相槌して、こわいねぇ、もしかしたらこっちにくるかもねぇ、と蛾を煽っているとも捉えられる、少しは我が息子自身に声の大きさを鑑みるよう注意してほしいところなのに、そんなことも考えないで少年の好奇心旺盛な心に寛大であろうと努めていた。
 蛾はしばらくして窓の隙間から逃げていった。
 少年と母親も逃げた蛾を追いかけるように、二人は律儀にホームドアが開くまで待って、降りていった。

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