6月2日
静かな快晴。電車内のパネルに映った天気予報では明日から六月らしく雨、曇りが続くらしいとのことだった。まるで今日が終わりを告げるカウントダウンに似た静かで、疲れが蒸発していくような虚脱感が燦々と照りつける太陽の明るさのなかで見えないまでも漂い続けている感じがした。
町の小さな図書館の前のベンチに座って、町の音を聞いていた。六月に入ったばかりの風は、やや煩くて乾いている。自動車と横断歩道を急ぐ自転車の音。急いでもいない、ただそこにあるありふれた景色をかたどったように見つめている自分の時間は、周りの動いているそれらよりもゆっくりとしていた。
図書館から出てきたであろう白髪頭を風に靡かせた初老の女性が、私を訝しげに見ていた。老婆は重くもない杖のような足を一歩、一歩と味わうように踏み歩いている。そして半袖から覗く骨張った肘が鋭利に映った。しみのある黄土色でくすみかかった皮膚。侘しく、瑞々しさも無くなった皮膚が私の目を俯かせた。蟻がいた。煉瓦の隙間を器用に進みながら、でもどこに行くのか定めていない足取りで私の足の周りをぐるぐると巡っていた。大粒の蟻だ。一匹の蟻は口先に白い塊を咥えていた。