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サザンオールスターズ「盆ギリ恋歌」完全解剖! 前半


いやぁ〜、2023年。サザンオールスターズ45周年の夏。3ヶ月連続発表シングルの第1弾『盆ギリ恋歌』最高ですね。本当に最高。

何が最高かと言えば、新旧和洋あらゆる要素を闇鍋のようにごった煮にしながら、サザンオールスターズとして新しい音楽を生み出しているところ。

ということで、今日は僕の思い当たる範囲で、この曲の元ネタと思われるものを、音源と歌詞に沿って、独断と偏見で洗い出してみようと思います。読者の方から新たな指摘や意見があれば随時反映していこうと思いますので、ぜひよろしくお願いいたします。

盆ギリをまだ聴いてないそこのオマエ!まずは下記からどうぞご拝聴ください。

まずは前奏。冒頭に聴こえるリズムは、日本の夏の風物詩「盆踊り」を彷彿とさせる太鼓の音色。そこに骨太ロックなギターのリフが絡みながら盆ギリは始まります。THE盆踊りの音色といえば福岡の炭坑節で、桑田佳祐の2022年全国ツアー「お互い元気に頑張りましょう‼︎」では、地域ごとに地元の民謡やゆかりの曲を歌うコーナー(横浜なら「赤い靴」、名古屋なら「燃えよドラゴンズ!」)で、福岡PayPayドームでこの曲を披露していました。

そこから一気に今どきっぽい(正確には数年前っぽい)ノリノリのシンセへ。僕は「あ、欅坂だ」と思いました。地方民謡と今をときめくアイドル風の音を重ねる時点で、完全なる闇鍋です。

ちなみにギターのリフは、サザンオールスターズ2003年の25th復活シングル「涙の海で抱かれたい〜SEA OF LOVE〜」のカップリング曲「経験Ⅱ」に似ていると思いました。(直球ド下ネタ注意)


ここからは歌詞に沿っていきます。

盆ギリ盆ギリ
夏は盆ギリ

この曲のタイトルでもある「盆ギリ」。所以は大きく2つあると、先日のミュージックステーションや桑田佳祐のやさしい夜遊び(ラジオ)で語っていました。

ひとつは、静岡県は遠州地方、浜松市あたりの風習で、故人の初盆に訪れる「盆義理」。

そしてもうひとつは、熊本県民謡である「五木の子守唄」。こちらは2番の冒頭で「おどま盆ギリ」と歌われている通り、明確な出典であることがわかります。

「おどま盆ぎり」というフレーズは、美空ひばり「哀愁波止場」でも歌われており、先日(2023.8.4)のミュージックステーションでは、最後にこの曲のフレーズをつなげていました。桑田佳祐はサザンオールスターズ「TSUNAMI」で日本レコード大賞を獲った際に「ひばりさんの背中が見えてきました」とコメントするほど、彼女に大きな影響を受けています。

ちなみに、似た題で京都の民謡である「竹田の子守唄」という曲は、フォークグループ・赤い鳥が歌っていました。いまいちピンとこない方も、この曲のB面である「翼をください」というタイトルには聞き覚えがあるでしょう。さらにちなみに、この曲名をパロったと思われるサザンオールスターズ「松田の子守唄」は、ドラマーの松田弘がボーカルマイクを握った知る人ぞ知る人気曲です。

ヨロシク Hold Me Tight

Hold Me Tightは、The Beatles。桑田佳祐が最も影響を受けたアーティストの一角です。

が、しばしば桑田佳祐の書く詩は「英語を日本語のように歌ったところが新しい」と評価されることがあって、このフレーズも例に漏れず桑田節の一部だったりします。例えば、ドラマ「大奥」の主題歌として2004年に発売された「愛と欲望の日々」です。ここでは「阿保みたい」という歌詞が登場しますが、そこには明らかに「I hold me tight」と歌っています。お家芸ですね。(下記動画2:04頃)

で、個人的にはこの「I Hold me tight=阿保みたい」は、徳島の阿波踊り歌「踊る阿保に見る阿保、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」にも通じている気がしていて、「盆ギリ恋歌」の本質を表しているように思えます。(個人的な感想)

盆ギリ盆ギリ
今は亡き人と
素敵な Lovely Night

ここで「亡き人」というフレーズが登場し、本格的に故人を想うお盆の情景が浮かびます。「Lovely Night」からは映画「La La Land」でも描かれたような、男女が夜に手を取り合って歌う壮大な景色が連想されます。

ギンギラギンギラ
踊る女と
男の曼陀羅絵

「ギンギラギンギラ」は世代によっていろいろ思い浮かべるものがあるでしょう。たとえば「おジャ魔女カーニバル」とか。

でもここはやっぱり、マッチこと近藤真彦の「ギンギラギンにさりげなく」でしょう。桑田佳祐は2008年の「昭和八十三年度!ひとり紅白歌合戦」でマッチの「愚か者」をカバーしています。名だたるアーティスト達の曲を自分のものにしていく中で、この曲の歌唱は特に印象的なステージのひとつでした。もちろん良い意味でね。

踊る女と男、と聴いて思い出すのは「女も立たす、男も濡れる」と歌ったえちえちナンバー、サザンオールスターズ「匂艶THE NIGHT CLUB」でしょうか。

そんな生きているのか死んでいるのか、はたまた生き返ってしまったのかわからない男女の絡み合いを、密教の曼荼羅に例えたわけですね。だんだんと日本なのか異国なのか、現代なのか遠い昔なのか倒錯してきました。

シッポリシッポリ
好きなあの子と
故郷(ふるさと)帰りゃんせ

しっぽり、はなんとなく「落ち着いた静かな雰囲気」を意味する言葉だと思って辞書を引いたら……急にえちえち曼荼羅絵な雰囲気が漂ってきました。「しっとりと十分に濡れるさま」「男女間の情愛がこまやかなさま」だそうです。

「好きなあの子」というフレーズは、サザンオールスターズ2015年のシングル「東京VICTORY」のカップリング曲「天国オン・ザ・ビーチ」にも登場します(1:24頃)。天国つながり…?ちなみにこの曲のPVは意味わからんほど豪華なキャストなので必見です。


また、似たフレーズは2013年の「ピースハイライト」収録の名曲「栄光の男」にも印象的に登場しますね。

故郷は近年の桑田佳祐が大切にしている命題のひとつのように感じます。前述の全国ツアーで各地にゆかりのある曲を披露したことしかり、2014年の「東京VICTORY」でも、盆ギリ直後にリリースされた現時点の最新曲である「歌えニッポンの空」でも、郷愁は大きなテーマとして彼の中で扱われているのかもしれません。

帰りゃんせ、のフレーズから連想するのはやはり「TSUNAMI」のカバーだった「通りゃんせ」ですかね。鎌倉の情景が妖しく浮かぶこの曲からは、どこか盆ギリの風情が漂うようにも思えます。桑田佳祐は自身のソロ曲「古の風吹く杜」や妻である原由子に提供した「鎌倉On The Beach」でも、鎌倉という土地を古き戦の舞台として畏怖の念を込めて描いています。

ヤバない?怖ない?正気かい?
姿は見えねぇけど
誰もがやってるよ~
みんなに内緒だよ~

Bメロはサザンのお家芸、Jpopの王道ノリ、チャッ・チャチャの手拍子です。今時の若者(っぽい)言葉で軽さを演出しながら、サビへと突き進みます。「姿は見えねぇけど」と若干のホラーみを帯びて描かれる景色はさながら「ゲゲゲの鬼太郎」というところでしょうか。誰にも見えない内緒の合間に、故人の誰もが夜の墓場で運動会ってやつですね。桑田佳祐は自身のTV番組「音楽寅さん」などでも頻りにこの曲をカバーしています。

ちょいと
老若男女が熱い魂で
『Rocking On』で Show!!

「ちょいと」は桑田佳祐の必修単語ですね。サビ冒頭で食うように使われるのは「C調言葉に御用心」を彷彿とさせます。

「Rocking On」は通称ロッキンと呼ばれるロックフェスを意識したものでしょうか。残念ながらコロナと台風で出演の叶わなかった2022年のロッキンでは、「ヨシ子さん」の歌唱の際にロッキンフェスや同グループ社長の渋谷陽一氏への思いを歌っていました(リハーサル音源を流したラジオ「やさしい夜遊び」にて)

語尾の「Show」に関しては、1980年にサザンが敢行した「FIVE ROCK SHOW」を思い出させます。この5ヶ月連続でシングルをリリースするこの試みのことを、本年の3ヶ月連続配信シングルリリースというニュースを聞いて想起しないファンはいないでしょう。

もう一度死ぬまで
踊り明かすのさ
Uh Uh

ここでいう「もう一度死ぬまで」は、言葉の通りなのか、「もう一度、死ぬ(くらい)まで踊り明かす」なのか、死んでるのか生きてるのか死んでるのか生きてるのかわからないところが盆ギリって感じでいいですね。

ほいで
呑めや歌えの迎え送り火
宴は Oh What A Night!!
遠い... 夏の... 恋でした

「ちょいと」からの「ほいで」。これは桑田佳祐を履修する上では応用に当たる単語ですので、覚えておくとセンターで高得点を狙えそうです。

迎え火・送り火はまさにお盆の風習ですね。そういえば、お盆と言われて思い浮かべる茄子や胡瓜の精霊馬もPVに登場してました。えちえちな感じで。

「Oh What A Night!!」と書いて「終わらない」と読むのは久保田利伸でしょうか。さらに元ネタがあるのかな。


さて、ここまででようやく1番が終わりました。とんでもない元ネタ(?)の量で思いのほか長くなってしまったので、2番以降はまた来週〜。

2番以降はコチラ▼



今週の質問「なぜか日常で頭をよぎる、ことわざや名言」

今日の日記でも登場した「踊る阿保に見る阿保、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」です。

新卒入社した会社での1年目の夏。仕事を早めに切り上げたコピーライターの上司と一緒に参加した築地本願寺の盆踊り。ビールやらたこ焼きを買い出して戻ってきたら、その上司の姿は見当たらず、キョロキョロ探していたら巨大な盆踊りの渦の中にいました。東京音頭に身を任せ、踊れているのかいないのか変わらないような動きで盆踊る上司を眺めているうちに、気づいたら僕もその渦中にいて、盆踊ってました。これがまぁ、楽しいのなんの。

一通り終えたあと、淡路島出身の上司が、ぬるくなったビールを手にひと言。

「踊る上司に見る阿保、同じ阿呆なら踊らにゃ損損、っていうやろ。あれホンマやねん」

なんかしらないけど、とんでもない説得力がありました。それ以来、見て終わりそうな時にはこの言葉を思い出し、「よーし、踊る阿呆になるかぁ〜」と袖を捲るようにしています。

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