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「本格」の罠。

ドラえもんの話をすると一定確率で「ミノタウロスの皿」をする人が出てきます。
この「ミノタウロスの皿」というのはドラえもんの作者である藤子・F・不二雄が描いた短編漫画で、SF色の際立った作品です。世間の考える藤子・F・不二雄のイメージからかけ離れた異様な作品だと言ってもいいでしょう。
ようするに、「ミノタウロスの皿」はそれほど人に語らせたくなる漫画なわけです。

ただし、ここでの本題は「ミノタウロスの皿」について語ることではありません。
大型本屋に行けば該当作を含んだ短編集は簡単に手に入りますし、その気になればまとめサイトでもネタバレ動画でも何でも見つかるはずです。

問題は、ドラえもんの話をしているときに「ドラえもんの作者ってこういう作品も書いてたんだよ」と「ミノタウロスの皿」の話をする人間のこと。
そうして切り出した心の裏側に、うっすらこういう意識が紛れてませんか?

『ドラえもんより「ミノタウロスの皿」の方が、奥深くて面白い』

こうして決めつけにかかるのは、自分が同じ意識を抱いていたからです。
ポップなドラえもんよりダークな「ミノタウロスの皿」の方が奥深くて面白い。
意外性に驚かされ、理由なくドラえもんを見下していた時期がありました。

この認識はとあるインタビュー記事でひっくり返されることになります。
辻村深月さんのインタビューです。
章タイトルをすべてドラえもんのひみつ道具にして執筆するほどのドラえもん愛を持つ辻村さん。異色SF短編をどう思ってるかは気になるところ。

そこでは、SF短編についてきちんと読んだうえで「ドラえもん好き」を堂々表明していると答えていました。

いままでの認識にヒビが入りました。
藤子・F・不二雄という作家を深く知っている人間であればSF短編をあえて推すのでは? という思い込みが壊れ、しっぽスイッチを引っ張られた直後のドラえもんのようにピタリと機能停止しそうになりました。

もちろん、「ミノタウロスの皿」が秀逸な作品であるのには変わりません。
ただ、藤子・F・不二雄好きを名乗る人が全員「ミノタウロスの皿」をイチ押ししているわけではないようです。

あなたも「自分は本格を求める人間だ」という驕りがどこかにありません?
少し気をつけないと逆に恥を晒してしまうかもしれません。
のび太が泣いているコマのような教訓も出たので、今日の日記はこれでおしまい。

今週の質問:もしドラえもんの秘密道具を無制限に使えるとしたら、どの道具をどう使って何をしたいですか?

タイムふろしきを使って皿や服を汚れる前の状態に戻しまくります。

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