【感想】「サンショウウオの四十九日」(著:朝比奈秋)
概要
2024年上半期(第171回)芥川賞候補作です。「いなくなくならなくならないで」に次いで、2作品目を読了しました。
感想
本作は、結合双生児として1つの体(正確には、右半身と左半身とが結合した体)で2つの人格を持って生まれた結合双生児・濱岸杏と瞬の物語。2つの人格が同時に活動していて、体を共有しているから、お互いが考えていることまで相手に共有されてしまう。理論屋の杏と行動派の瞬が、陰陽図(=白と黒のサンショウウオ)のように、お互いを補完しながら生きていく。
本作は、双子の杏と瞬が視点人物の物語ですが、どちらも心理描写がほとんど無いのですよね。なので、それぞれが相手のことを互いにどう思っているのかとか、相手とのかかわりで自己をどうとらえたのかとかは、はっきりはわかりません(ちなみに、同じような関係にある父と伯父についても、心情が語られることがない。)。読者である自分は結合双生児の当事者ではないので、杏や瞬の気持ちを想像することもできなくて、自分としては、なかなかとらえどころがないまま話が終わってしまった印象を受けました。
少しメタ的にみると、先天的なものによって多くの読者と体のつくりが乖離している話って、すでに「ハンチバック」が芥川賞を取ってしまっているし、ストーリーやメッセージも「ハンチバック」の方が本作より圧倒的に強いと思うのですよね。そういう意味でも、(選考委員がそういう相対的な評価をするとは思わないけど、)本作が芥川賞受賞するのかどうか興味があります。