【感想】「同姓同名」(著:下村敦史)
概要
最近のミステリは特殊設定モノが流行っているようで、本作も、登場人物(犯人、被害者、容疑者)全員が同姓同名というかなり凝った設定のお話です。作者の狙い通りと思いますが、読んでいる途中、どの「大山正紀」の話をしているのか混乱するため、なかなか読むのが大変でした。
感想(ネタバレあり)
全員が同姓同名ということで、メインは叙述トリックだろうと想像はつくのですが、上記の通りで、いまどの「大山正紀」の話をしているのかを識別するのが分からなくなる箇所があり、また、実は時系列もバラバラに構成されているので、最後の解決編まで全体像がつかめませんでした。とはいえ、真実が明らかになると、注目すべき「大山正紀」が絞られるので、割とすんなりそれぞれの人物関係が頭に入ってきて、それなりにスッキリします。
また、事件の真相を解決していく過程で、それまでに物語上に登場した要素を漏れなく回収していくのは、うまい構成だと思いました。
最初あらすじを見たとき、コミカルないわゆるバカミスみたいな作品かなと思ったのですが、実際は割と重苦しい雰囲気の社会派ミステリで、事件と無関係な人たちが、SNS等を介して誰かを誹謗中傷すること(しかも本作は犯人と同姓同名の別人やその関係者も攻撃される)の害悪や、正論であってもそれを阻止できない社会構造についても描かれています。現実世界でも実際に痛ましい結果につながってしまうことがあって、しかもそれが改善されずに繰り返されてしまっていることからすると、そうしたSNSの功罪は、いろんなジャンルに通ずる近年の普遍的なテーマだと思います。