記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

【感想】「DTOPIA」(著:安堂ホセ)│2024年下半期芥川賞候補作②

 2024年下半期の芥川賞候補作2作目。第46回野間文芸新人賞候補作でもあります。

あらすじ

恋愛リアリティショー「DTOPIA」新シリーズの舞台はボラ・ボラ島。ミスユニバースを巡ってMr.LA、Mr.ロンドン等十人の男たちが争う──時代を象徴する圧倒的傑作、誕生!

出版社HPより引用

感想

 デビュー作から三作連続で芥川賞候補になっている著者。自分は、安堂ホセさん作品を読むのは今回が初。方々からかなり高い評価を受けているのは、雑誌とか文芸系のwebサイトで知っていましたが、本作は私はちょっと乗れなかった。

 あらすじにあるリゾートアイランド ボラ・ボラ島での恋愛リアリティショーは冒頭のみで、物語の大部分は、そのショーにMr.東京として参加する井矢汽水(通称キース)と、モブとして参加する女性モモの半生。
 リアリティショーが公式で配信されている動画以外に、あらゆる場所でカメラが回っていてそれを視聴者が自由に編集したりできるといったような設定のつくり込みは新しさがあって面白いけど、必ずしもそれが本作の中核にかかわってくるのでもなく(公式・非公式間の編集・翻訳により参加者たちが語ったことの取捨選択が生じるといったことはあるけど)、舞台設定・登場人物も(面白いけど、)先進国による搾取・ルールメイキングをえぐるための配置に見えてしまった。
 もちろん、そうした題材を扱うことには大きな意味があるけど、本作はそうしたエッセンスがあらゆる角度から盛り込まれていて、よく言うと、出版社HPにある「語りと構造、ストーリーの面白さの中に、資本主義や植民地主義、ウクライナ戦争やガザでの虐殺についての鋭い批判が、当然のように滑り込む。」(須藤輝彦氏)ということになるのだけど、ちょっと斜めからの視線で見ると、そういうモチーフを少量ずつつまんでいくことが、それらを消費することになっていないかという目線も必要だと思うのですよね。

 本作で言おうとしていること(と自分が思ったこと)は大事とは思うものの、多分もっと絞って深く切り込んだ方がよかったのではと、勝手ながら思ってしまいました。小説をほとんど書いたことがない自分が言うのはかなり僭越ですが。

 それと、本作の視点人物はキースを「おまえ」という二人称で読んでいることから、モモになると思うのですが(途中モモが知り得ない場面もあるので、三人称視点的二人称ですが)、モモの心理の変遷が自分にはよく分からなかった。中学生の頃は、「『モモは』(中略)『信じてるから』」(信じている対象は明確化されていないが、文脈からしてキースのことと理解しました。)と言っていたのに、「おまえ」ことキースをどういう動機でずっと追跡(トレース)してきたのか、追跡の間に何を感じたのか、ほとんど触れられていないのですよね。
 むしろ、モモによる「おまえ」の追跡は、時系列順に事実を淡々と述べるのに終始していて、その淡白さも、自分が乗れなかった一因のように感じました。

 とはいえ、書評等を読むと一定の支持層をすでに獲得した感のある安堂ホセさん。本作も、文藝掲載からほとんど時間を空けずに単行本化されているし、今後注目されている作家さんの一人ですね。

いいなと思ったら応援しよう!