9月は遅めの夏休みを取り、二泊三日で旅行へ。暑すぎたのでホテルの部屋で昼寝したりひたすら本を読みました。
1.「この世の喜びよ」/著:井戸川射子
二人称の文体が独特で面白い。その文体のせいか、「あなた」である穂賀さんのことは描写があるけど、フードコートで出会う少女やゲームセンター勤務の多田さんのことは、作中ではあまりよく分からないんですよね。そういう非対称的な視点によって、全体的に不穏な空気を感じた。
井戸川さん作品をほかにも読んでみようと思い、既刊本を何冊か購入したので、近いうちにまた読みたい。
2.「若き見知らぬ者たち」/著:島口大樹
これまでの三作(特に「鳥がぼくらは祈り、」)で完全に島口大樹ファンになったので、新作も早速購入・読了。
今作も文章表現は相変わらずのすごさで、それを見るだけでも十分に楽しめる。本作は映画のノベライズのためか、ストーリー展開が映画的で、小説にしては少し展開が遅め。
本作のような救いのない(少ない)映画作品が自分は好きなのかもしれない。
3.「わたしを空腹にしないほうがいい」/著:くどうれいん
エッセイだけど日記のように日付入り。食べ物に対する文章の解像度が高く、エッセイに出てくる食べ物全部おいしそう。
4.「我が友、スミス」/著:石田夏穂
面白いのは間違いないが、ボディビル界隈の世界観や大会出場までの道程の説明にウェイトが多く割かれている印象で(マイナーな世界なのでしょうがないが)、ボディビル出場手引きみたいになってしまっていて物語に上手く入り込めなかった。
5.「##NAME##」/著:児玉雨子
なかなか感想を語るのが難しいのだけど、主人公雪那は、ジュニアアイドル時代に「被害」に遭っていた自覚はなく(不勉強だが、そもそも被害といえるのか?)、むしろ仲間たちとの楽しい思い出の部分もあったと思うのですよね(あらすじからしてもそうだし。)。そうすると、本作の一番表層の感想として、そうした「ギョーカイ」の悪慣習のひどさはありつつも、その中にあった当事者たちの努力とか楽しい思い出も全部ひどい出来事だったと判断されたり、なかったことにされたりするのは、それはそれで違うのではというところまで描かれていると思っています(とはいえ、著者インタビューをいくつか見たけど、そこまで掘り下げられているものは見つからなかった)。そういう(いい意味で)どっちつかずというか、白黒つけられない感情とか出来事を取り上げられるのが小説の良さだなと思います。
6.「ケチる貴方」/著:石田夏穂
「我が友、スミス」に続いて石田夏穂作品。
人に親切にすると体温が上がるという設定は面白い気がするけど、ソフトなSF感のある物語。
7.「新しい恋愛」/著:高瀬隼子
高瀬隼子作品で恋愛ってどんな感じかなと思っていたけど、どの作品も燃え上がるような恋愛ではなく、むしろそれどころか、恋愛感情自体の気持ち悪さや居心地の悪さを捉えたような作品群。そういう悪感情を抽出するうまさが高瀬隼子作品の好きなところだと再確認した。
8.「ブラックボックス」/著:砂川文次
本作以外の候補作はこれまでに全部読んでいたので、第166回芥川賞受賞作と候補作を全部読み終えた。個人的には九段理江「Schoolgirl」が一番好きかな。
9.「くっすん大黒」/著:町田康
相変わらず町田康作品は唯一無二で面白すぎた。