【感想】「冬期限定ボンボンショコラ事件」(著:米澤穂信)
概要
米澤穂信の<小市民>シリーズ第5作です。「秋期限定栗きんとん事件」が2009年刊行なので、(2020年刊行の短編集「巴里マカロンの謎」をはさみつつ)15年ぶりの新作。春期限定から始まったシリーズも冬季限定となり、(少なくとも「季節限定」=長編?は)いったん完結でしょうか。
本作は、主人公の小鳩くんと小佐内さんの出会いや、二人が小市民となることを志すことになったきっかけ、二人の互恵関係が結ばれた経緯などが明かされ、シリーズのラストでありながらエピソードゼロ的な位置づけでもあり、また春季限定から読み直したくなるような絶妙なポジションの作品です。
なお、文庫の中にチラシが挟まっていたけど、2024年7月にアニメ化されるとのこと。<古典部>シリーズも京アニにアニメ化されてファン層が広がりましたが、本作もさらに盛り上がって、「巴里マカロン」のようなサイドストーリーが続刊してくれると嬉しいです。
感想
物語の構成、そしてシリーズ全体構成が巧み
(専門家でもなんでもない私が言うのも何ですが、)まず本作の特徴として構成が巧みな点が挙げられます。
物語としては、主人公・小鳩くんが堤防の上にある一本道で自動車にひき逃げされるところから始まります。実は三年前(小鳩くんが中三のとき)にも同じ道路でひき逃げ事件が起き、小鳩くんのクラスメイトが被害にあいますが、今回の事件と共通点が多く、ひかれたケガで入院中の小鳩くんが、三年前の事件を回想しながら話が進んでいく(過去の事件を解決しながら、現在の事件も解決されていく)という構成です。
この過去回想を織り交ぜながら物語を進めていくのが本作をシリーズ構成的にも絶妙なポジションに置いていて、これまでのシリーズであまり語られてこなかった、そもそもなぜ小鳩くん・小佐内さんは小市民を志すのか、二人の互恵関係はどういう経緯で結ばれたのか等が明らかになり、単純に現在の事件が解決されるだけでなく、シリーズ全体の謎というか設定背景も明らかになっていくようになっていて、第1作からのシリーズファンとしてはかなりのスッキリ感がある作品になっています。そして、それがまさにシリーズ第1作の「春期限定いちごタルト事件」につながっていくので、冒頭に述べたように、また新たに第1作から読み直したくなるような構成となっているのが非常に巧みです。
事件単体も面白い:オープンな密室(?)でのひき逃げ
現在の事件も三年前の事件も、堤防上の一本道「堤防道路」で起きるひき逃げ事件です。この堤防道路は、左右が急な斜面になっていて車が道路外にそれることができず、事件現場の前後にある交差点からしか堤防道路から出られない地形となっており、どちらのひき逃げ事件も、車が逃げた先にある交差点にはコンビニの監視カメラがあり、その交差点を通ると絶対にカメラに写ってしまいます。すなわち、広い意味での「密室」状態となっている事件現場ですが、どちらの事件も、現場で目撃された特徴のひき逃げ車両が監視カメラに写っておらず、いかにして密室から脱出したのかが一つの謎となっています。
このように、上記に挙げた構成に加え、実際の事件の方も謎に包まれており、続きが気になってどんどん読み進めたくなりました。
米澤穂信の多才さ
著者の米澤穂信は、<小市民>シリーズのほか、アニメ化された<古典部>シリーズ、<図書委員>シリーズのようなライトな「日常の謎」モノの作品を多く手掛ける一方、「満願」や「追想五断章」といったダークミステリ、ファンタジーミステリ(「折れた竜骨」)、本格モノ(「インシテミル」)、青春ミステリ(「ボトルネック」、「リカーシブル」)、社会派モノ(太刀洗万智シリーズ)等々、ミステリという縦軸はありつつも、作風がかなり幅広で(私はダークモノが一番好き)、しかもどの作品もそれぞれのジャンルでトップレベルに面白いです。
今回の「冬期限定ボンボンショコラ事件」でもそうですが、自分にとっては絶対にハズレがなく、まさに私にとっての推し作家です。
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