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2024年3月に読んだ本の一言感想/印象に残ったフレーズ


1.「私は男でフェミニストです」/著:チェ・スンボム、訳:金みょんじん

 韓国の男子高教師の著者によるフェミニズム論。「フェミニズム」というワードにいろんな意味合いや印象が付加されてしまった結果、なかなか現実で言葉に出せなかったり、ちょっと微妙な単語として扱われたりするのが素朴に疑問だったため、男性が考え実践するフェミニズムならとっつきやすいかなと思って手に取った。
 内容的には、自分が期待したものとは少し違って、著者の個人的経験とそれによってなぜフェミニストになったのかという話が中心。必ずしもすべてに共感できたわけではないが、引き続き勉強してみようとは思った(さしあたり、「男も女もみんなフェミニストでなきゃ」を購入した。)。

 二一歳のときだった。大学内のフェミニズム研究会で学んでいた後輩男子に尋ねた。
 「男なのに何のためにフェミニズムの勉強をしているの?」
 私の質問ににっこり笑いながら答えた彼の表情、声、まわりの風景がいまでも鮮明によみがえる。衝撃的だった。
 「男だからよくわからないんです、学ばないと」

「私は男でフェミニストです」プロローグより引用

 何よりもフェミニズムは女性だけのための運動ではない。狭く硬い殻に閉じ込められた男性の呼吸をも楽にさせてくれる。男たちはどうしてお酒に酔わないと本音が吐き出せないのか。たいへんな状況でもひとりで耐え抜くこと、悲しいことがあっても泣かないことが、どうして男の美徳になったのか。

「私は男でフェミニストです」3章より引用

2.「みどりいせき」/著:大田ステファニー歓人

 雲が雨をいっぱい溜め込んだぶん、ぶ厚くなって太陽を隠しちゃった。そのおかげで外は明けてんのか暮れてんのかって暗さで、中庭の木や向かいの南棟、それぞれの影はぼんやり溶け、ぜんぶの縁取りがお互いに染み込み合って窓枠の中の景色は遠近感を失っている。

単行本「みどりいせき」P.23より引用

 この独特のリズムを持った言語感と、情景が浮かび上がってくる表現が共存している文章が本当にすごいと思った。

3.「鳥がぼくらは祈り、」/著:島口大樹

4.「本心」/著:平野啓一郎

5.「パッキパキ北京」/著:綿矢りさ

 ダ・ヴィンチ2024年2月号か3月号で「今月のプラチナ本」に挙げられており、集英社も特設サイトや著者本人出演の告知動画(サイト内)を作っていて、かなりの力のかけよう。
https://www.bungei.shueisha.co.jp/shinkan/pakkipaki/
 帯に「痛快フィールドワーク小説」とあるけど、じっさい、綿矢りささんがご家族と中国に滞在していた際に書かれた小説のようで、綿矢さんご本人の経験に基づいて書かれたのだろうということが伝わってきます。主人公・菖蒲を憑依させて、北京を歩き回っていたのだろうか・・・。

6.「しをかくうま」/著:九段理江

 妻と感想を話し合って、少し理解が深まった気がする。

7.「おいしいごはんが食べられますように」/著:高瀬隼子

 高瀬さんの本を2冊積んでるから、4月は少なくともどちらか読みたい。

8.「猿の戴冠式」/著:小砂川チト

 「家庭用安心抗夫」も購入したから、来月読む。

9.「同姓同名」/著:下村敦史

10.「もぬけの考察」/著:村雲菜月

 とあるマンションの408号室で住人がみんな消えていくお話。イヤミスとかヒトコワ系かなと思って読み始めたら、意外と純粋にホラーだった。個人的には、最初の話が一番好き。

11.「窓の魚」/著:西加奈子

 章ごとに四人の主人公それぞれの視点で一つの出来事が語られる多元視点モノ。純文学ともいえるし、ミステリともいえる話だけど、なかなか読み進めるのに苦労した(後の章の視点を活かすためか、序盤の視点人物の話の聴き取れなさが気になった。)。

12.「体育館の殺人」/著:青崎有吾

13.「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」/著:高山羽根子

 第161回芥川賞候補(受賞は「むらさきのスカートの女」)の表題作を含む4作を収録。表題作は、視点がいろんな話題に移り、なかなか読むのに苦労した。ただ、『お腹なめおやじ』にお腹をなめられた主人公が、勝手な印象により同級生から『なめられていないほうの女子』にカテゴライズされたところは笑った。
 特に1編目と2編目は情景描写が独特で、固有名詞で説明できるような物事を、いったん要素分解して、その最小要素を再構築したような表現がおもしろかった。3編目はコロナ禍のロックダウンした都市を想起させる世界観が舞台のSF作品で、1~2編目から急に作風が変わって良い意味で驚いた。

(その他)漫画

「ダイヤモンドの功罪 5」/作:平井大橋

 今一番推してる漫画。主人公・綾瀬川次郎は、能力だけ見ると、野球漫画の主人公としてありがちな最強投手だけど、その内面がこれまでの野球漫画にない。新たなエース像ではあるけど、令和になって(良くも悪くも)アップデートされた意識に照らすと、むしろリアルな人物像なのが面白い。
 どうして自分はこの漫画が好きなのかなと考えてみると、(全然違うけど、)仕事論の中の自分が特に関心ある事項に共通する部分があるからではと思った。
 本作の主人公・綾瀬川次郎は、同世代からと比較して頭一つ抜きんでた体格と能力で周りの選手は全く歯が立たないのだけど、綾瀬川本人は楽しく野球できればそれでよくて、むしろ自分が相手を負かすことで相手が監督や親から怒られないかを心配していたり、競争が生じないような弱小チームに所属しようとしている。それに対して、周りの大人や同世代の中のガチ勢の選手たちは、「綾瀬川のことを思って」と言って(そして、綾瀬川の本心は知ろうとせずに)、綾瀬川のことを思って強いチーム(=より熾烈な競争環境)に行くことを勧める。
 これを仕事に置き換えて考えてみると、超有能な若手社員がいたときに、その社員を、仕事上で活躍できそうな役割に置いたり、そういう部署に配置すること、あるいは、より収入を多く得られる道に進むのを是と考えるのが現状の大勢の考え方かなと思うけど、じゃあ、その社員が、仕事はそこそこでよくて、家族との時間とか自分の趣味に時間を費やしたいと思っていたときに、組織側・管理側はどうすれば良いのか。この点を組織側・管理側が考える必要があるというのが私の今の関心ごとで、(本作を読んでいる最中には作品に集中しているから全然考えないけど、)本作の読後にいろいろ考えていると、仕事面で起きていることと似ている部分があるなと感じた。

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