【雑記】「社内報アワードで入賞したいんですか? 普通にやれば獲れますけど」とクライアントに気軽に言った結果、なにがなんでも賞を獲得しなければならなくなった話
世の中に「社内報」というメディアがあることをご存じだろうか。簡単に言えば、自社社員向け広報誌のことである。
一定以上の規模の企業ではほぼ例外なく取り入れられており、これが実はちょっとした産業となっているのだ。
ネット上には社内報担当者向けのハウツー記事が無数にあり、社内報専門の制作会社もあれば、社内報に特化したウェブサービスもあって、そしてもちろん「社内報アワード」というものも存在する。
かくいう弊社もここ10年ほど某地下鉄会社の社内報の編集に携わっており、なんならアワードで全国2位になったり最高位のゴールド賞を受賞したりして、この業界の末席に連なっていると言っても過言ではないと言えないこともない気は少なからずしていた。
そんな経緯もあって昨年、某コンサル会社の社内報制作のコンペ参加を引き受けることになり、オリエンの席でクライアントが「社内報アワードでの入賞」をKGIに掲げているというので、ここぞとばかりにこう発言した。
「アワードですか? 普通にやれば獲れますけど」
いちおう説明しておくと、これはハッタリでもなんでもなく、事実である。どういうことかと言うと、社内報は性質上、社員主導でつくられる。もちろんそれは正しくて、むしろそうでなくては実効性のあるものにはならない。
しかし、コンテンツ制作が本業ではない人がつくればアウトプットとしてはツッコミどころの多いものになるのは当然で、それゆえに「普通に(まっとうに)制作すれば」審査員の評価は高くなる、ということだ。
実際、過去にゴールド賞を受賞した企画も、奇をてらったり、超気合を入れたということはなく、ターゲットとテーマを明確にして適切なコンセプトを立て、それに沿ってコンテンツとして編集するという当たり前のことをしただけである。「普通にやれば」は、体感にもとづいた発言ではあるのだ。
今回の提案でも、いつもどおりマジメに考えて企画した。そして念のため、わりと軽い気持ちで、最後に「実績」として過去の受賞歴を記載しておいた。そして無事に弊社の提案が選ばれて、初回ミーティングの席でのこと。
「これが賞を獲れる社内報の企画なんですね」
「審査員の評価のポイントはどのあたりですか?」
「受賞できるのはどの部門なんでしょう」
パワポ数枚の企画書しかないのにもかかわらず、受賞前提で打ち合わせが進んでいった。しかし「普通に獲れますよ」と言った以上、引き下がることはできない。一つひとつの質問に“アワード請負人”かのように答えた。
もしもこれで獲れなかったら弊社はどうなるのか?
「さんざん大口叩きましたけど、ダメでした。申し訳ございませんでした」
まるで対戦相手を煽りに煽ったあげく秒殺KOされたボクサーのような、失笑を通り越して、いたたまれない気持ちにさえなるパターンである。
それだけは避けたい。しかし「普通にやれば」と言った手前、トリッキーな戦法で戦うわけにもいかない。八方塞がりである。
以降、ことあるごとに予防線を張りまくった。
あるときは取材の合間に「この企画が部門とマッチするかどうか次第ですね」としたり顔で。あるときは打ち合わせの帰り際「応募数がどれくらいかで話が変わってくるんだよな〜」と聞こえるように。あるときはメールで「実は審査員の好みってものがあるんですよ」と真偽不明の情報を流し。
さらに万全を期すべく、応募用紙はすべてこちらで記入させていただいた。真夜中、すべての項目に文字数の限界までびっしり書き込んだ。
そして制作物を納品して数か月後、クライアントから連絡がきた。
「シルバー賞を受賞しました!」
こんなに安堵したのは、親に頼み込んで一浪させてもらったあとに受験した大学の合格発表以来だった。しかもゴールド賞でもブロンズ賞でもない、絶妙な位置の賞である。これ以上ない結果だった。
そして今年、幸いにもクライアントから2年目の依頼をいただいた。
「今回はゴールド賞を目指したいんですよ〜」
2ラウンド目の開始である。果たして弊社はリング上に立っていられるのか。審査結果に乞うご期待。
(飯塚)