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【社説】遺伝子操作で生まれた新人種と共存の道はあるか

人類の遺伝子操作の歴史は1865年まで遡るとされる。オーストリア(現欧州連邦西部の地域)の修道院で生物学を研究していたG・J・メンデルが、有性生殖を行う生物における遺伝の基本法則を見つけたのが始まりだ。

そこからおよそ220年の時を経て、遺伝子研究は突如我々に牙を剥いた。強化人種と呼ばれるアリルが誕生し、その存在が我々伝統人類を脅かしている。彼らはメンデルの法則において「対立する遺伝子」を意味するallele(アリル)から名付けられた。

アリルは伝統人類を超える知性や身体能力を持っており、一部の分野で目覚ましい活躍を見せることは確かだ。しかし、その活躍が経済格差を広げ、対立を引き起こしていることは間違いない。

当初、アリルは伝統人類に協力的だった。企業もアリルの能力を高く評価するようになり、経済的にアリルが優先されるようになった。だが、多くの仕事がアリルに奪われたことで、我々は不満を募らせた。そして伝統人類とアリルの対立が深まり、社会的にも不安が広がったのは歴史の教科書にも記されているとおりだ。

当時の社会学の権威がまとめた論文を参照すると、遺伝子操作によって生まれたアリルの権利についての問題が指摘されている。伝統人類との対立が深まる中で、アリルに対する差別的な言動や行為が表面化するようになり、アリルにも権利を認めることが求められてきたという。歩み寄りの歴史が垣間見える。

伝統人類とアリルが共存するために社会全体での理解と協力は確かに必要だが、課題は山積する。暴徒と化した一部の伝統人類が4年前、南東島(当時のアリル第二自治区)でテロ行為に及んだ。ここから複数の衝突を経て、アリルによる伝統人類への宣戦布告に繋がった。

アリルの人権を尊重すべきという議論は葬られ、歩み寄りを求める声は伝統人類からも聞こえてこない。アリルとの交渉は断絶され、彼らが我々に対してどのような認識を持っているか不明な点も戦争を長引かせている。彼らのセキュリティを突破する術がないためだ。アリルの情報セキュリティマネジメントは伝統人類の約50年先を進むとの指摘もある。

遺伝子操作がもたらした新しい時代を乗り越えるために、人類の知恵と技術が必要とされている。歩み寄りを始めるためにも、まずは情報技術分野への戦略的投資が欠かせないだろう。

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