完備化 定義・定理・証明と背景
[ノルム空間]
線型空間$${X}$$から$${[0, \infty)}$$への写像$${\|\cdot\|_X}$$が
$${\|u\|_X=0 \Rightarrow u=0}$$
$${\|au\|_X=|a|\|u\|_X}$$
$${\|u+v\|_X\le\|u\|_X+\|v\|_X}$$
を満たすとき$${\|\cdot\|_X}$$をノルムという.
有界連続関数に, その定義域での値の絶対値の上限を対応させれば, それはノルムである. 他に, 絶対値のリーマン積分の値を対応させてもノルムである. ソボレフ空間は, 開集合で可測な関数の, 自分自身を含む弱導関数の絶対値のルベーグ積分で, 関数とその変化率の大きさ(ノルム)を測る空間で, 偏微分方程式の解の存在を示す上でかなり強力な道具である. さらに強力なべゾフ空間もソボレフ空間の実補間空間である. ソボレフ空間は完備化として定義される.
[バナッハ空間]
ノルム空間$${X}$$は
$${(u, v)\mapsto \|u-v\|_X}$$
を距離として距離空間となる. 完備なノルム空間をバナッハ空間という.
[ノルム空間の完備化]
任意のノルム空間$${X}$$に対して, バナッハ空間$${X'}$$と等長写像$${i:X\to X'}$$が存在して$${i(X)}$$は$${X}$$において稠密である. 他に, バナッハ空間$${X''}$$と等長写像$${j:X\to X''}$$が存在して$${j(X)}$$が$${X''}$$において稠密であれば$${X'}$$と$${X''}$$は距離空間として同型である.
[証明と直観的意味]
適切な記号の書き換えをすれば距離空間の場合にも適用できる. $${C}$$を$${X}$$のコーシー列全体の成す集合とする. $${C}$$に同値関係$${R}$$を
$${\{u_n\}R\{v_n\}\iff \lim_n\|u_n-v_n\|_X=0}$$
と定義する. コーシー列は収束列とは限らないが, 極限が同じと思われる点列を同一視しようという動機である. 実際,
$${\|u-v\|}$$
$${\le \|u-u_n\|+\|u_n-v_n\|+\|v_n-v\|}$$,
同様に
$${\|u_n-v_n\|}$$
$${\le \|u_n-u\|+\|u-v\|+\|v-v_n\|}$$,
ゆえに
$${\lim_n u_n=u, \lim_n v_n=v \Rightarrow[ \,\lim_n\|u_n-v_n\|_X=0 \iff u=v\,]}$$.
$${X'=C/R}$$,
$${i:X\ni u\mapsto i(u)=[\{u, u, u, …\}]\in X'}$$
とする. $${X'}$$の要素は$${X}$$のコーシー列たちの極限とみなせるであろう.
$${u=[\{u_n\}]\in X'}$$に対して
$${\|u\|=\lim_n\|u_n\|_X}$$
と定義することができる. 実際,
$${|\|u_m\|_X-\|u_n\|_X|_\R\le\|u_m-u_n\|_X}$$
だから極限は存在し
$${\|u_n\|_X\le \|u_n'\|_X+\|u_n-u_n'\|_X}$$,
$${\|u_n'\|_X\le \|u_n\|_X+\|u_n'-u_n\|_X}$$,
ゆえに$${\{u_n\}R\{u_n\}'}$$ならば$${\lim_n\|u_n\|_X=\lim_n\|u_n'\|_X}$$であり, 極限は代表元の取り方によらない.
完備性の証明. $${\{[\{u_n^{(k)}\}]\}}$$を$${X'}$$のコーシー列とする.
$${\lim_{k,\ell}\lim_{m, n}\|u_m^{(k)}-u_n^{(\ell)}\|_X}$$
$${\le\lim_{k,\ell}\lim_{m, n}\|u_m^{(k)}-u_m^{(\ell)}\|_X+\lim_{k,\ell}\lim_{m, n}\|u_m^{(\ell)}-u_n^{(\ell)}\|_X =0}$$
だから任意の自然数$${k}$$に対して或る自然数$${n_k}$$が存在して$${n\gt n_k}$$ならば
$${\|u_n^{(k)}-u_{n_k}^{(k)}\|_{X}\lt 1/k}$$.
ゆえに$${\{[\{u_n^{(k)}\}]\}}$$は$${i(u_{n_k}^{(k)})}$$に収束する.
稠密性の証明. 任意の$${\varepsilon\gt 0, u\in X'}$$に対して或る$${\{u_n\}\in C}$$と自然数$${N}$$が存在して$${m, n\gt N}$$ならば
$${\|u_m-u_n\|_X\lt \varepsilon/2}$$.
よって
$${\|u-i(u_n)\|_{X'}=\lim_m\|u_m-u_n\|_X\lt \varepsilon}$$.
一意性の証明. 写像$${F}$$を
$${F:i(u)\mapsto j(u)}$$
となるように定義すると$${F}$$は$${i(X)}$$と$${j(X)}$$の間の距離同型写像である. $${i(X)}$$は$${X'}$$で稠密かつ$${j(X)}$$は$${X''}$$で稠密であるから$${F}$$は$${X'}$$から$${X''}$$への距離同型写像に拡張される.
(END)
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