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Parker という楽器

誕生するのが早すぎた、時代が追い付いていなかった、狂気的な情熱が
注ぎ込まれていた、と呼ばれるアイテムはこの世に多数存在する。

OSTACの電卓「CL-800」
ソニーのウォークマン「WM-DD9」
ファミコンのソフト「メタルスレイダーグローリー」「烈火」

ギターなら「Parker」もその一つだったと私は思っている。

●極薄、カーボンファイバー、ピエゾ

1993年、ケン・パーカーとFISHMANのラリー・フィッシュマンによって
Parker guitarsは誕生。
従来の重量のかさむソリッドな木材だけのエレキギター構成から脱し、

「柔らかく軽い木材を使い」
「外気温や湿度の影響を受けないよう」
「カーボンファイバーの層で包み、剛性を確保」
「磁気PUと圧電PUの音をステレオで出せる」
「本体重量平均2.5kgと軽量で3次元曲線を多用した極薄ボディ」
「それでいて通常のエレキに近い抱え心地とバランスを確保」
トラスロッドがピアノ線
「トレモロはスプリングでなく板バネ」
「ステンレスフレットをエポキシで接着」

という、文言だけでも攻めまくった仕様を携えていた。


Parker FLY deluxe

PUもダンカンやディマジオの特注(ビスマウントの足が無い)
これはマルキオーネのPUマウントとほぼ同じ。
スプリング、ゴムワッシャー、スポンジによる高さ調整法とは
違い、限りなくリジッドにPUを本体に固定できる。

Marchione guitars。ハムPUの「足」が無い。


特徴的なヘッドは共振を無くし重量を減らす為…ではなく
トラスロッドをレンチで回しやすくする為
(ネックのセンターから1弦側へ、トラスロッドが斜めに
仕込まれている為に可能な芸当。正直強引な構造)
結果的に見た目もアイコニックになり、BlackMachineのルシアー、DougもParkerをインスパイアしたと過去に語っていた。
 

Parker Head


BlackMachine Head

ほぼすべての面で挑戦的だったせいなのか、
Parkerが存在していた1993年開業から2004年に会社がUSMCに売却、
大量生産向けに仕様が変更され、生産が完全に終了した2015年までの間、
大ヒットとは言えない売り上げだったように思う。
事実このギターは問題が多く…

・やけに軽い、変な形、玄人向け、
・ネックが柔らかすぎて四季のはっきりしている日本では安定しにくい
フレットが一回はがれるとリペアがクソめんどくさい
・左ホーンが体に刺さって常時痛い
・うっかり倒すとネックの根元から最悪丸ごと剥がれる

なんて意見をちょくちょく目にした記憶がある。
ハードウェアも独自、会社が無くなってはサポートも無い。
修理も交換も出来ない。そもそもパーツが出回って無い。

中古市場で出回っているParkerも訳アリ個体が多く、基本傷物Cランク、
特に「プレリファイン期」と呼ばれる、会社売却に伴うモデルチェンジ前の個体は経年劣化もあり、入手したとしても修理費用が膨大に嵩み、
ある意味旧車レストアのような事になる場合も珍しくない。

ボディ下部にホイールが見えるのがモデルチェンジ前のParker FLY Deluxe。
この「プレリファイン期」のFLYを探す人は多く、根強い人気がある。


ホイールが見えないモデルチェンジ後のFLY。板バネ調整機構、コントロール配置、
ブリッジサドル形状等が大量生産向けにマイナーアップデートされた。

近年、主に海外で中古価格が跳ね上がってきている。
一応希少なギターではあるし、価値はあるのだけど…
噂によれば「2020年頃に海外でparkerの中古価格を跳ね上げて販売した業者がおり、そのあおりで市場価格も上がってしまった」らしい。

●FLY CLONE Project

既に会社も製造もない。しかし世界中のparker愛好家達がネット上で情報を集めていくと、イギリス辺りにはまだパーツが残っていたり、ごく少数parkerのリペアが可能な工房なども存在していた。

2018年、Parkerの知識を有志達で共有するプロジェクトが立ち上がる。
上記はそのプロジェクトのサイトで、恐らく世界で一番parkerの
情報がまとまっている。英語の為翻訳必須だけど、興味があればぜひ
覗いてみてほしい(特に有益なのはシリアルナンバーの解読法)

この30年ほどでエレキの音楽シーンも大分多様化した。
薄く、軽く、ピエゾもついていて、木材とカーボンファイバーで
パッケージングされ、個性的な見た目でJAZZもROCKも行けるparkerは
カバーできるジャンルが幅広い。私が好きなParker使いはデイブマートン。2006年のNAMMでデモ演奏を間近で観覧した事がある。

Dave Marton

●そして自分もこの前手に入れた


1994年製、Parker FLY deluxe fixed bridge ver.
ジャンク扱いでオークションに出ていた。
「フレット剥がれは無く、一応音は出る」との事。
事前情報でそこだけ分かれば十分。あとは自分で直す。
幸い自分は楽器製作者だ。ジャンク品は問題にならない。


ノーメンテで長い事弾かれてきたであろう、カーボン指板。
ステンフレットが摩耗…というか、恐らく一度高音弦側が剥がれ、再接着したものの高さが上がってしまい、自力ですり合わせをしたような痕跡があった。
1フレットと2フレットの1~3弦側だけ厳しい感じだったので、クラウンを再成形する。
削りすぎると全体すり合わせになるので、ひとまずベッタベタの台形からある程度頂点を残して曲面を作り様子を見る。まだ全然攻めれる範囲。
10‐46を張り、チューニング。他フレットは音詰まりなど無し。しいて言うなら
ナット溝が深すぎて開放がちょっとビビっている。

今後もParkerの記事を書こうと思う。このギターは語れる所が多すぎる。